ツドイトゴラクノキンダイスペイン セビーリャノソシアビリテクウカン 978-4-7791-1658-2 9784779116582 4-7791-1658-9 4779116589 0022 集いと娯楽の近代スペイン セビーリャのソシアビリテ空間 アルベルト・ゴンサレス・トゥロヤーノ 岡住正秀 畠中昌教 椎名浩 辻博子 塩見千加子 アルベルト,ゴンサレストゥロヤーノ オカズミマサヒデ ハタナカマサノリ シイナヒロシ ツジヒロコ シオミチカコ 執筆者
アルベルト・ゴンサレス・トゥロヤーノ(Alberto González Troyano)
セビーリャ大学文学部教授 専門:スペイン文学・文化史
イサベル・ゴンサレス・トゥルモ(Isabel González Turmo)
セビーリャ大学文学部 専門:文化人類学、食文化
フランシスコ・バスケス・ガルシア(Francisco Vázquez García)
カディス大学文学部教授 専門:スペイン・フランス現代哲学およびセクシュアリティの文化史
アンドレス・モレーノ・メンヒバル(Andrés Moreno Menjibal)
著作家:音楽・演劇の評論、バスケス・ガルシアと売春に関するいくつかの共著
ホセ・ルイス・オルティス・ヌエボ(José Luis Ortiz Nuevo)
著作家:フラメンコをテーマとする多くの作品で知られる。クリスティーナ・オヨ=フラメンコ協会の理事
1949年福岡県生まれ、北九州市立大学文学部教授:スペイン近現代史
著書・論文等: 『スペイン文化事典』(共著、丸善、2011年)、『たたかう民衆の世界』(岡住正秀、中野博文、久木尚志編著、彩流社、2005年)、『スペインにおける国家と地域』(共著、国際書院、2002年)、「アグロタウンにおける民衆労働者のアソシアシオン—セビーリャ県コンスタンティーナ(1900−23年)—」(『スペイン史研究』14号、2000年)、『ラティフンディオの経済と歴史―スペイン南部大土地所有制の研究 (農政研究センター国際部会リポート) 』(アントニオ・ミゲル ベルナル著、食料・農業政策研究センター 編集、太田尚樹・立石博高・中塚次郎・岡住正秀・中川功訳、食料・農業政策研究センター国際部会、1993年)、『グラナダの南へ—スペイン農村の民俗誌』(G.ブレナン著、共訳、現代企画室、1992年)。 久留米大学経済学部准教授:スペイン観光地理学 共著に『日本・スペイン交流史』(坂東省次・川成洋編、れんが書房新社、2010年)などがある。 熊本学園大学非常勤講師:スペイン中世・近世史 共著に『スペイン検定』(南雲堂フェニックス、2008年)、『日本・スペイン交流史』(坂東省次・川成洋編、れんが書房新社、2010年)、『スペイン文化事典』(丸善、2011年)などがある。 北九州市立大学非常勤講師:スペイン現代史 共著に『スペイン人はこう話す!―気持ちを伝える視覚表現150』(青木文夫・辻博子・マリアエルナンデス・ビセンテアジャ、芸林書房、2004年)などがある。 元関西外国語大学准教授(在セビーリャ):スペイン現代史・アンダルシア研究 彩流社 サイリュウシャ 目 次/集いと娯楽の近代スペイン――セビーリャのソシアビリテ空間
緒 言――日本の読者のみなさまへ
………………………アルベルト・ゴンサレス・トゥロヤーノ(岡住正秀訳)
第一章 啓蒙のテルトゥリアからロマン主義的居酒屋へ
………………………………………アルベルト・ゴンサレス・トゥロヤーノ(岡住正秀訳)
1 はじめに――ソシアビリテ空間への誘い
2 文明化のソシアビリテ
3 啓蒙のテルトゥリア
4 ロマン主義的居酒屋
インテルメッツォ① ソシアビリテ空間へ
第二章 時代はめぐり店舗は変る——家の外で食べる、飲む
………………………………………………イサベル・ゴンサレス・トゥルモ(畠中昌教訳)
1 はじめに
2 都市は時代の足音を聞く
3 十九世紀後半の店舗の多面性
4 新しい世紀には新しい様式
5 時代は要請する――フランコ体制の時代
6 大いなる歩み(一九六九~一九九七年)
7 おわりに――時代のリズムとともに
第三章 飾り鉄格子の奥で――売春の黄金時代(一八六〇~一九三六年)
………………………………………………フランシスコ・バスケス・ガルシア(椎名浩訳)
1 はじめに
2 近代の売春政策のはじまり
3 売春宿の分布とその特徴
4 社会学的指標から見えてくる姿
5 生き残りの実践
インテルメッツォ② セビーリャ、スペイン第三の都
第四章 人々は劇場に集う――演劇の熱情のゆくえ
…………………………………アンドレス・モレーノ・メンヒバル(辻博子・岡住正秀訳)
1 はじめに
2 新しい演劇政策の企図と挫折
3 サン・フェルナンド劇場――ブルジョワの娯楽の殿堂
4 オペラのロマン主義的典礼
5 演劇の広がり、分化する劇場(一八五五〜七四年)
6 王政復古体制のエンブレム(一八七五〜一八九八年)
7 演劇の危機──映画の到来(一九〇〇~一九三六年)
インテルメッツォ③ フラメンコ誕生について――最近の研究から
第五章 カフェ・カンタンテ――新聞はどう見たのか
…………………………………………ホセ・ルイス・オルティス・ヌエボ(塩見千加子訳)
1 はじめに
2 カフェ・カンタンテのはじまり
3 フラメンコ・カフェの登場
4 ブームの到来とシルベルオ・フランコネッティ
5 非難の嵐
6 混じり合い、そしてフィナーレ
訳者あとがき……………………………………………………………岡住正秀
セビーリャ関連年表
図版出典一覧
事項索引
人名索引 訳者あとがき
本書は五名の研究者による共著Los Espacios de la Sociabilidad Sevillana ( Sevilla, Fundación El Monte, 1998)の全訳である。一九九七年十月七日から九日までセビーリャのエル・モンテ財団主催のシンポジウムにおける連続講演をもとに編集された論文集であり、以下の五本の論考が所収されている。
González Troyano, Alberto, “ De las tertulias ilustradas a las tabernas románticas”, pp. 9-33.
González Turmo, Isabel, “Historia y sociabilidad”, pp. 35-69.
Vázquez García, Francisco, “Tras la Cancela: Sevilla en la edad de oro del burdel ( 1860-1936 )”, pp. 71-120.
Moreno Mengíbal, Andréz, “Los teatros y la vida social en la Sevilla contemporánea”, pp. 121-208.
Ortiz Nuevo, José Luis, “Los cafés cantantes”, pp. 209-232.
本書は内容的にそれほど硬派の学術書ではない。扱われる個別テーマは多様であり、それぞれが興味をそそられる。ただし、これまでわが国で出版されたスペインものの書籍に取り上げられることがなかったテーマだけに、章の間に三つの「インテルメッツォ」として、ソシアビリテ研究案内、セビーリャの歴史散策、最近のフラメンコ研究動向に関するコラム欄を設けることにした。読者の方々の理解が深まれば幸いである。また本書には関連年表と索引を作成した。年表は椎名が、索引は辻がそれぞれ担当した。
訳出に当たっては、著者の意向によって題目を変更したものもあり、各章を構成する論文には小見出しを設けた。なお、原著に掲載されている図版は出版元および関係機関の承諾を得てそのまま掲載したが、それ以外に、いくつかの写真と図版などを利用した。とくにセビーリャ市立文書館から七点の写真の使用許可を得るとともに、アンダルシア自治州地理局からは、十九世紀のセビーリャ市街地図を提供していただいた。
* * * *
スペインにおける歴史研究は、この三〇年間に大きく様変わりした。フランコ独裁から民主化をへて八〇年代の着実な民主主義の定着と経済発展とほぼ並行するように、歴史学研究の担い手にも世代交代が起こり、欧米の歴史学との国際的交流が次第に常態化し、近現代史研究においては「社会史」が主流となった。九〇年代に入ると、ソシアビリテ研究が注目を浴び一種のブームの感を呈している。しかし、これは始まったばかりである。アンダルシアにおけるソシアビリテ研究については、セビーリャ大学の人類学者らの研究集団やマラガ大学の歴史学研究者らが、それぞれこのテーマに取り組み、一定の成果をあげつつあるが、方法論的にも実証的研究においても未開拓の状況に変わりはない。そんななかで、私たちが翻訳した本書は、文学あるいは文化史、社会史、日常の民俗学、フラメンコ研究といった多様な学問領域から、セビーリャの近現代史のなかで日常的に人々が織りなしたソシアビリテ空間を扱ったパイオニア的試みである。
本書の特色は、スペインを代表する都市に生きた人々が時代の変化のなかで、どんな場所をソシアビリテの場としたのか、それぞれの時代にふさわしい居場所をいかに見出したかを明らかにしてくれる点である。カシーノやカフェの個別的な研究はある。しかし、ひとつの都市を舞台に設定し、時代の流れのなかで特徴的なソシアビリテ形態、とくにソシアビリテ空間を扱った本はまれである。ソシアビリテ研究の分野でも評価される本書は、セビーリャ社会の姿とともに、スペインの歴史も描き出してくれる。
わが国では近年、スペイン史に関する優れた概説書が出版され、三〇年前に比べれば、スペイン史への理解は格段に深まったように思われる。その間に、スペイン内戦、カタルーニャやバルセローナ、バスクをテーマとする論文や研究書の類が次々と出版されてきたが、南スペイン、とくにアンダルシアに関する学術的な性格の書はほとんどないのが実情である。その意味では、日本でもあまり知られていないテーマに新たな視点から接近した本書は、斬新な内容となっている。本書が日本でのスペイン近代史の理解に多少なりとも資すれば、訳者たちにとってこの上ない喜びである。 緒 言——日本の読者のみなさまへ
私たちに固有の特異な性格は、時として他者の目がそれを確認してくれるものなのだろう。
数年前のこと、大学教員や研究者からなる私たちは、セビーリャのエル・モンテ財団の後援で集いの機会をもったことがある。そのとき「セビーリャのソシアビリテ空間」をテーマとする連続講演において、私たちはそれぞれの専門領域から研究成果を発表し、その後一冊の本にまとめ上げた。それが本書である。
私たちが共通に抱いていた考えは、次のようなものであった。一般的にアンダルシア、とりわけセビーリャでは、私的な面においても公的な面においても、歴史的に特異な人間関係と共生の多様な形態が形成されてきた。しかもそれらは研究に値しうるし、その成果を活字にとどめるに値するものであると。
実際のところ、セビーリャの人間の社会的特殊性については、昔から実に多くのことが語られてきた。旅行者や文学者たちは、テルトゥリアや居酒屋をはじめ、ともに語らい、ともに飲み、食べる公の出会いの場、さらに売春宿の利用、芝居やオペラ見物に出かける情熱などについて、とりたてて多くを語ってきた。彼らは多くのページをカフェ・カンタンテの紹介にもさいている。この空間は、フラメンコの歌と踊りの伝播にとって決定的な役割を果たした。しかしそうした場所は、これまで個別的に光が当てられ、しかも単に叙述的に描かれたにすぎない。さまざまなソシアビリテ空間がどのように機能したのか、なぜそうなのか、またセビーリャ文化のなかでいかに定着したのか、といった諸側面を分析するよりも、ひとつひとつが表層的に語られたにすぎない。
本書の共著者が意図したのは、セビーリャ社会の枠組の本質的部分を成す、多様なソシアビリテ空間に存在する内的な結びつきを探求することであった。そうした趣旨から、私たちは歴史的文脈のなかにそれらを位置づけるとともに、それらが果たした決定的な社会的役割を提示したいと考えた。
私たちの仕事は、セビーリャが生きた歴史的体験をより深く理解するために、いくつかのカギを提示することに絞り込まれていたようだ。それ以上の「企て」に値するとは思っていなかった。そうであるから、本書の内容に注目された岡住正秀氏が私たちの共著の翻訳を申し出られ、このたび日本で出版の運びとなったことは、私たちにとって驚きであり、同時に何よりも大きな喜びでもある。
とても豊かな、また私たちにとっては、まったく異なる文化を有するはるか遠い国、日本。その研究者の世界から、セビーリャで歴史的に育まれてきた共生の諸形態に関心が注がれるのは、日本の研究者の好奇心あふれる寛容さの表れなのだろう。このことは、冒頭で述べたように、他者である私たちの特異性の価値を認知してくれ、同時に私たちをより普遍的に、より身近な存在にしてくれることだろう。
共著者代表 アルベルト・ゴンサレス・トゥロヤーノ
アンダルシアの特異な人間関係と共生の多様な文化と形に光を当てる!
テルトゥリア(クラブ)、カフェ、居酒屋、売春宿、劇場、オペラ、フラメンコ・・・・・・
セビーリャについては、多くのことが語られてきた。旅行者や文学者たちは、テルトゥリアや居酒屋をはじめ、ともに語らい、ともに飲み、食べる公の出会いの場、さらに売春宿の利用、芝居やオペラ見物に出かける情熱などについて多くを語り、これらはフラメンコの歌と踊りの伝播にとって決定的な役割を果たした。しかし、さまざまなソシアビリテ空間がどのように機能し、なぜそうなのか、またセビーリャ文化のなかでいかに定着したのか、といった諸側面は表層的に語られたにすぎなかった。本書は、セビーリャ社会の本質を成す、多様なソシアビリテ空間の結びつきを歴史的文脈のなかに位置づける労作である。