書店をたずねて三千里

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営業部便り・2002.6 『本が輝く棚とは』

書店に行くと実に多種多様な本があります。特に大型書店などの巨大な棚は、単にベストセラー本や新刊本だけを並べただけではスカスカになるので、かなり以前に出版された本や規模が小さい出版社の本も置いて、様々なお客さんのニーズに答える商品構成をしなくてはなりません。当然この作業をするのは現場の書店員であり、それぞれのジャンルの棚の仕入れ担当者であるわけです。“棚に本を並べる”実はこれが簡単ようでいてかなり奥が深く難しい作業なのです。今現在私は出版社に在籍していますが、以前割と長い期間書店で働き書籍仕入れと棚担当をしていたことがある経験上、身に染みてそのことはよく分かります。最近巷(特に出版業界内)では、「金太郎飴書店が増えた」とか「ついつい衝動買いしてしまうような棚のある書店がなくなった」などとよく耳にします。私も一時期そう思っていました。しかし私は営業で全国の様々な書店を周る間に、その考えが誤りであることに気付かされました。ちゃんと頑張って、本を仕入れて魅力ある棚を作れる、または作ろうと努力している若い書店員達と数多く出会ったからです。
今回紹介させていただく三省堂書店神田本店で文芸書棚を担当する奥澤さんもその中の一人です。本が輝く棚、つい買う目的の本だけでなく、その隣りに並ぶ本や、その書店でしか見られない個性的なフェア台の本も衝動買ってしまうような棚。それを作れる書店員です。ただ、奥澤さんの作った棚に感心し、興味を持った人が私だけなら、たまたま私と奥澤さんの好きな本の趣味が一緒だっただけで、悪く言えば自己満足の棚に過ぎないと思う人もいるかもしれませんが、奥澤さんの棚に感心しているのは、私だけではないということを、最近出版社同士の会合や、三省堂神田本店を訪れたことのある友人、知人複数人から「あそこの外国文学の棚は凄いよね、ポップとかも個性的だし本好きにはたまらないよ」と言うのを聞きくにつけ、確信へと変わりました。この前なんて某出版関係の業界紙の記者の方が「あそこは凄いよね、ぜひあの棚の担当者の取材をしたいな」と言っていたぐらいです。
毎月奥澤さんが仕入れて行う外国文学のフェアは実に面白かった。今月はサッカーワールドカップに因んで「ワールドカップ文学フェア」それぞれの出場国の文学を集めたフェアで、小社からも「あらゆる名前(ポルトガル)」、「カカオ(ブラジル)」、「僕のうちは殺された(クロアチア)」などを並べていただきました。先月のフェアは「自殺の文学史フェア」で自殺に関係する作家や内容の本を並べて、自殺をイメージさせる洒落たポップ(ちょっと恐い・・)もついていました。その前の月は確か「ダメ男フェア」とかいうので、例えばニック・ホーンビィ著の「ハイ・フィデリティ(新潮文庫)」(この本は私も読んだことがあるが、本当にうだつのあがらないダメ男が主人公だった)が並んでいたのを覚えています。さらに凄いのはこれらのフェアはただ面白いというだけでなく、ちゃんと売れていてフェア全体で百冊以上売れることもあったということです。
ただここで残念なお知らせをしなくてはなりません。そんな素晴らしい書店員の奥澤さんが移動になることを本人の口から先週営業で三省堂を訪れた際に聞くことなりました。三省堂書店の別の部署(売り場ではない)に移動とのことです。

そこで私は言いたい「三省堂書店さん!!もったいないですよ。奥澤さんの作った棚を見てください!!!」と。
会社だから人事異動はしょうがありません。でもせめて後半年、一年はやっていただきたかった。奥澤さんがいつか売り場に戻ってくる日を願っています。
他にもぜひ紹介したい素晴らしい書店員の方々は日本全国にたくさん居られます。みなさんも今度書店に行った時はじっくり棚を観察してみてください。その棚の本を仕入れて並べた書店員の想いが感じられるかもしれませんよ。

奥澤さん
ワールドカップ文学フェア

(写真・三省堂書店神田本店にて、左:奥澤さん、右:「ワールドカップ文学フェア」)

(筆・春日)