日々是好日

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月別一覧

日々是好日 第13回

2020 年 10 月 15 日 木曜日

◇9月○日

事務所の会議で、今後具体的に採用活動をするかどうか……という話が出る。

⁂ ⁂ ⁂

事務所の末っ子である。日本の弁護士全体から見ても、72期の私は末っ子で、73期はまだ司法修習中だ。

72期、73期、という呼び方は、司法修習開始時期により決まる。司法修習とは、司法試験に合格後、法曹三者(弁護士、裁判官、検察官)になるにあたって受ける必要のある(例外あり)研修をいう。弁護士界隈では、期は多くの場合、年齢以上の重みをもっている。

弊所入所時、原則#$%&の間は、国選の刑事事件を除き、仕事は先輩弁護士と共同受任とするという契約をした。弊所弁護士は皆人格者なので(恒例の自分の事務所アゲ)、私は先輩弁護士に助けてもらったり褒めてもらったりしつつ、機嫌よく仕事に邁進している。

しかし、ここにきて採用活動の話題……すなわち私の後輩を加えることも考えるということか……勿論ずっとこのままというわけにはいかないけれども、でも、この末っ子ポジションがもう少し続いてもいいんじゃないかなと思っているんです……さっき! さっき! 働き始めたところなので……。と思っていると、弁護士会から来年の訟廷日誌(弁護士御用達? の手帳。全国弁護士協同組合発行)の配布申し込みのお知らせが来て、働きはじめて1年を迎えつつあることを知る。 (続きを読む…)

日々是好日 第12回

2020 年 9 月 15 日 火曜日

◇8月○日

美容室でドラマ「SUITS 2」の話題がでる。

アメリカの話なんで、実際、日本の法律事務所とは違いますよねえと美容師さん。

 

⁂ ⁂ ⁂

 

この時、私は美容師さんに心から感謝しました。

本連載の原稿、毎回七転八倒しています。優しい担当の方の温情で、なんとか掲載を続けられておりますが、毎回六転目くらいで締切ギリギリになります。

弁護士の仕事を垣間見てもらい、この仕事に興味を持ってもらうとともに、普段はおよそ意識しなくても、法律がいかに皆さんの生活に関わっているか、その影響がどれほど大きいかが伝わればいいなと思っています。そして法律ひとつひとつを定めているのは、結局、立法府である国会のメンバーを選挙で選ぶことのできる一人一人であるということに思いを至らせる内容にしたい(目論見を書いてしまった)という気概だけは捨てていません。しかし実際には、守秘義務違反をするわけにはいかないので具体的な仕事のことを詳しく書くことはできないし(もし書けたら、弁護士ってやりがいのある仕事だなときっとわかってもらえるでしょう)、そうなると読み応えは減ってしまうし、不正確なことも書きたくないし、本業で書面を書くより難しいなといつも感じています。

そんな中、ヒントをくれた美容師さん本当にありがとう。

今回は、日本の法律事務所と弁護士について書きたいと思います。 (続きを読む…)

日々是好日 第11回

2020 年 8 月 15 日 土曜日

◇7月○日

宝塚歌劇・月組「グランドホテル」の公演映像を観る。

ホテルマンのエリックが、生まれた子どもを祝福し、この子は全てを手に入れるだろう(大意)と歌うところで私は毎回泣く。登場人物は各々の(それが叶わないことが観客にはあらかじめ分かっているものもある)希望を見つけて、グランドホテルを旅立って行く。

⁂ ⁂ ⁂

宝塚が大変なのである。

公演のお休みが続いている。

阪急は鉄道もホテルも百貨店も持っている大きい会社だから、きっと大丈夫という分厚い信頼と、そうはいっても多数の生徒・スタッフを抱えた、そして不急不要のエンタメである宝塚が、この状況にいつまで持ち堪えられるのかという不安がないまぜになる。

私にとって宝塚は、オットーにとってのフラムシェン、男爵にとってのエリザヴェッタあるいはその逆だ。小林一三先生どうか宝塚をお守りください。

 

◇7月△日

刑事事件判決。 (続きを読む…)

日々是好日 第10回

2020 年 7 月 15 日 水曜日

山本有紀

 

◇6月○日

事務所に高校生のお子さんがいる人がいる。

そのお子さんがそろそろ、文系か理系かを決める時期とのこと。

⁂ ⁂ ⁂

高校生の頃、アラビア語を勉強したいと思って大学は外国語大学を志望していた。

そのため文系か理系かで悩むことはなかったが、途中アラビア語は語学の授業で勉強しようと思い直し、結局文学部に入った。

しかしその文学部も2回生になる時に転学部してしまった。

その後もいろいろ寄り道をして、一時は病院でアルバイトをしていた。医師という仕事も面白いな……しかも開業医儲かるね……と思った。しかし血を見るのはイヤなので、自分に医師は務まらないだろうと思っていた。ところが司法修習で行政解剖(ものすごくざっくりいうと、犯罪の被害には遭っていないが死因が不明の人の解剖)に立ち会う機会があり、驚くべきことに血を見ても体の中を見てもびくともしなかった。

解剖では、ご遺体をかなり細かく分解してその各々を見ることになるが、怖さや血がイヤという気持ちはどこかに吹き飛んで、人間の体はこうなっているんだな……こんなに精緻な作りなのね……と心から興味深かった。こんなに細かいいろいろで人間の体が成り立っている(本当に凄いのです)のだから、そりゃ少しでもおかしいところがあったら全身に影響するだろうね……でも人はみんなこのいろいろがバランスをとって生きているんだねぇ……そしてそのトラブル対応ができる医師や薬を作ってる人! すごいね! と医療従事者への畏敬の念が大変に高まった。15歳で行政解剖に立ち会っていたら、理系に進んでいたかもしれない。 (続きを読む…)

日々是好日 第9回

2020 年 6 月 15 日 月曜日

山本有紀

 

◇2020年5月○日

彩流社さんに原稿を提出。ホームページの設定の関係で林タムタムのペンネームで書いていた連載に引続きという形で掲載されるとのこと。焦る。ちょっと照れる。

⁂ ⁂ ⁂

去年の今頃、「司法修習生」をしていた。

司法試験を受けて合格し(例年9月発表)、司法修習採用選考に申し込むと、最高裁判所に司法修習生として採用される(病気で修習できないなどの事情がない限り、採用されるとのこと)。12月に始まる1年間の司法修習を修め、その後考試(二回試験と呼ばれる。これを読んでいる司法修習生がもしいたら、君、とにかく集合修習で出た問題をちゃんと復習しよう、さすれば受かる)に合格すると判事補(裁判官)、検事(検察官)、弁護士となる資格を取得できる。

現実には、裁判官、検察官になる(裁判官になることを任官、検察官になることを任検と呼ぶ)ためには、司法修習が始まった早い段階で、任官あるいは任検したい旨教官である裁判官、検察官に売り込んでいったり、見初められたり(成績が優秀だとか、司法試験一発合格だとか、プラス熱意だとか)する必要がある。そして、司法修習中も優秀な成績をキープし、アンオフィシャルな内定をもらわなくてはならないとのこと(私のような平凡な修習生にはその全貌は可視化されなかった……)。 (続きを読む…)

日々是好日 第8回

2020 年 5 月 15 日 金曜日

山本有紀

 

◇2020年4月◯日

横浜地裁民事部から事務所に繰返し電話がある。緊急事態宣言発令を受けて5月6日までの期日は取消し・おって指定とのこと。各事案の依頼者さんに事情を伝える電話をする。

 

⁂ ⁂ ⁂

 

3月末に横浜の家庭裁判所に行ったとき、申立人待合室の窓とドアが全開になっていた。

風がびゅーびゅー通り抜け、裁判所もコロナ対策大変だな……と思いつつもまだこの時点の私は、期日が取消しになるとは予想していなかった。

期日というのは、裁判の日程(日程にもいろいろ種類があるがここでは割愛)のことで、一般の民事事件であれば事案にもよるが約1ヶ月おきに期日が入る。多くの場合はその日の期日の最後に、次の期日を決める。裁判官が「○月○日の午後はどうですか?」等というので、訴訟の両当事者(代理人がいればその代理人(弁護士))が「お受けできます」や「その日は差支えです……」等と答えて次の期日の日程が決まる。 (続きを読む…)

日々是好日 第7回

2019 年 12 月 15 日 日曜日

#7 歳末脚立棚卸し編

林タムタム

 

年末ですね。皆さんは2019年が始まるにあたりどのような目標を立てていたでしょうか。タムは体重5キロ減、黒字の生活を守り、読書は1ヶ月5冊、映画は1ヶ月3本、芝居も1ヶ月3本、ジム通いと料理を日課とし、英会話を習って、いつも明るく朗らかに、人のことを気遣い、社会にアンテナを張って、生きて行こうという目標がありました。順調に各目標をクリアして、い、今は完全無欠のタムです、す、す……あれ……? 視界が歪んできた……

ごめんなさい。嘘をつきました。いまだに家には炊飯器すらないです。食パンをトースターで焼くことはするよ! サトウのご飯シリーズでいうと、普通にあきたこまちがおいしいと思う! オーケーストアで銀色の袋のドリップコーヒーと一緒に買うんだよ! その日暮らしのタム。 (続きを読む…)

日々是好日 第6回

2019 年 11 月 15 日 金曜日

♯6 一本足ケンケン散策編

林タムタム

 

上野の国立西洋美術館に行く。パンダを見に来たひとと一緒になって信号を公園側にわたる。この人出なので美術館はもう混み始めているはずだ。ベラスケスのマルガリータが転写された看板を横目に見ながら一心不乱に館内に進む。今日は花總まり様の解説音源を聴きますの。うふ。

美術館でキュレーターを務めている友人がいる。「美術展」だけではなく「美術館」に魅力を感じてもらえるよう、そして美術館に繰り返し足を運んでもらえるよう、美術館の側で色々工夫をしていると彼女は言う。ただ効果を上げるのはなかなか難しいとも。

友人の話には、美術館それ自体も目的やコンテンツとして楽しんでもらえるようにという考えがもとにあると思う。取組みとして土日にイベントを打つこともあるらしい。 (続きを読む…)

日々是好日 第5回

2019 年 10 月 16 日 水曜日

♯5 ひとマス戻るモーター編

林タムタム

 

彩流社さんに今月もなんとか原稿を送った。ふう…がんばった…よしよし…。

しかしそれはいくつか前の原稿の下書きであった。

当然原稿は原稿の体をなしていない。やんわりと質問のメールをいただいた担当者様、本当に本当に申し訳ありません。ついに壊れたと思われたでしょうか。本当にごめんなさい。タムは今後もこの連載を頑張りたいと思っていますので何卒今後ともよろしくお願いいたします。

タムはあまり掃除ができないたちである。タムの母が、非常な綺麗好きであったため、タムの生家は非常に綺麗に片付けられていた。そのためタムは、綺麗な机の状態、綺麗な家の状態というのがなんたるかについては理解している。

今いる自分の家についても、友人や郵便屋さんが見るかもしれないと考え、彼らの来襲が予期される場合には、部屋を片付けておこうという知恵は付いている。しかし内心は、いざ掃除をするにあたっても、片付けられた家なるものをこれまで見てきた通り再現しているだけで、なぜ部屋を片付けなくてはならないかということを真の意味では理解していない。部屋が汚くても特に私自身は不快を感じていないのである。むしろ多少汚いぐらいが味があるくらいに思っている。 (続きを読む…)

日々是好日 第4回

2019 年 9 月 15 日 日曜日

#4 閑話休題東北編

林タムタム

 

大曲にいた。

広い河川敷に広く広く用意された桟敷の人区画に座って日本酒を飲んでいた。8月の末でも秋田の夜はどこかさわやかだ。さっき通り抜けてきた横手やきそばや焼き鳥の屋台の賑わいの先に、この河川敷があり、桟敷には驚くほど多くの人が集まっているはずなのに、一人一人の可処分的スペースが広いのか、座った皆の鼻先まで降りてきている高い高い夜の空が広いせいなのか、あたりは静かでおとなしかった。日本酒を3分の1ほど入れた紙コップが、水気を含んで心なし冷たくなり、紙の表面の細かな凹凸がこれまでにないほどはっきりと指から読み取れる。周囲の人たちが各々話し笑い合っているのが見て取れるのに、音は夜空に吸い込まれて個別の語の区別のない、控えめなさざめきとしてしか耳には届かない。日中の色付けが想起されない、夜の河川敷で、各人は身を寄せ合うわけでもなく、何かに打ち込むわけでもなく、ただこれから起こることを期待して集まり広がっていた。 (続きを読む…)