内容紹介
東アナトリアに遺るキリスト教・イスラーム教の歴史建築の全貌! 約400点
五世紀の柱上苦行僧・聖シメオンが最期に目にしたヴィジョンとは?
東アナトリアの荒野に漂着した「石の方舟」が忘却の淵から謳い上げる豊饒なカンタータ
パレスチナに生まれたキリスト教は西欧に布教され、強大な教会権力を生み出した。その権力機構のもとで、西欧の各地に壮麗な教会堂が建設された。……しかし、その信仰はシリアを経由して東アナトリアにも伝えられた。そこで広まったキリスト教は、アルメニア教会、グルジア教会(後にビザンツ教会に復帰)、或いは単性派教会にみられるように、五世紀のカルケドンの公会議で異端として退けられながらも、そこに住む人々の信仰を獲得していった。東アナトリアに広まったキリスト教では、史料の多くは失われ、祈りを捧げた人々のほとんどは記録を残す事もなく、歴史の彼方へと消えていった。だが、祈りを捧げた空間は、雄弁に彼らの存在を語っている。……
版元から一言
解題『東アナトリアの歴史建築』 黒津高行
本書は、東アナトリア地域に残された多様な歴史建築を、12年にわたる研究成果を踏まえて紹介した写真集である。2007年に刊行した写真集『Out of the Frame──アルメニア共和国の建築と風土』の続編にあたる。まさに本書の書き出しは、前書の「おわりに──into the Frame」で記した2005年12月のアルメニア訪問の場面から再び語られてゆく。
本書に収録された美しい写真は、著者が建築遺構の撮影をとおして過去と対峙して切り取った記録である。建設者たちよりも長生きしてきた建築物には分厚い「過去の知識」が蓄えられている。著者から提示された建築写真を前にした読者は、おそらく時間の重みを感じることになるであろう。これらの建築が何を語りかけているのか、そのことを直ちに読み取ることはできないが、頁を開く度に、東アナトリアの歴史建築の現在とその魅力の何かがずっしりと伝わってくるに違いない。建築写真集という性格上、かちっとした誌面構成になっているが、時折差し込まれた風景と人物の写真が読者をほっとさせてくれる。そして、かつて独自の建築空間を創造した当時の人々の願いと、それを育んだ広大な大地に、またそうした空間と共に送られる生活に思いを巡らせることができるかも知れない。
著者によれば、地中海・黒海・カスピ海に囲まれたアナトリア・カフカース・シリアの各地域には、独自の建築文化が開花したという。とりわけ、五世紀から一四世紀にかけては、アナトリア中部の初期キリスト教およびビザンツ教会の建築、北シリアの初期キリスト教建築、東アナトリアからカフカース一帯に分布するアルメニア教会およびグルジア教会の建築、アナトリアに広く分布するセルジューク朝期のイスラーム建築など、多様な建築形式が展開した。キリスト教の歴史建築だけでも六〇〇棟を超える遺構が残されている。
著者は、1998年からアルメニア教会建築を対象に悉皆調査を開始し、建築技術の側面から東アナトリアにおける各建築群の建築的特質とその展開を明らかにしてきた。そして、調査対象をアナトリア高地全域に拡張し、これまで西欧建築史の文脈の中で捉えられてきたこの地域の建築文化を再評価し、史的位置づけを試みようとしている。本書は、こうした研究蓄積の中から生まれた。ここでは、2006年から2008年の3年間に調査した東トルコに散在するキリスト教・イスラーム教の建築遺構を中心に紹介しており、翼畠な写真と建築解説をとおして、失われつつある東アナトリアの多様な歴史建築の様態を炙り出してみせる。さらに、2009年のシリアでの調査成果も盛り込み、キリスト教建築を生み出した最初期の建築形態を読み解いている。
本書は、「石の来歴」と題した序と後書きを含む五章構成で、巻末に調査の中心メンバーである藤田康仁と守田正念による論考を収録する。
(中略)
本書は、写真集の体裁をとっているが、解説の内容は深く、東アナトリアの歴史建築の系譜をダイナミックに論述し通史でもある。かつてギリシャのアトス山に滞在して修道院建築遺構を調査した著者の、熱い思いが伝わってくる。つまり、五官で実物と向き合う重要性、海外の建築に漂う立ち位置、学術論文では表現できない建築史学研究の面白さを伝えようとしたのではないか。近年、建築史学の分野でもアジア圏を除けば、海外の古い建築を研究する学徒は減少の傾向にあり、本書がそうし風潮に一石を投じるものであることは間違いない。建築史学が美術史や歴史学とどう異なるのか、本書が提起している問題は、今後、工学部建築学科の中に籍を置く建築史学の発展を考える上で、避けては通れない答えを求められる問でもある。その問に対して、著者は何よりも、建築史学を社会に対して開くことの必要性を、主張しているように思えてならない。その試みの一つが本書ではなかったか。あえてガチガチの学術的な体裁を捨てた本書の構成や記述が、それを物語っているように思えるのである。一般読者を含めた知的世界の構築、幾らか学術的な若手の論考を含めて、著者はそうし議論の場を社会に提供したかったのではないだろうか。
本書は、日本ではこれまで紹介されることの無かった貴重な建築記録であり、学術資料としての価値は高い。建築歴史、意匠関連の専門家ばかりでなく、建築文化に関心をよせる一般読者の期待にも応えてくれる一冊といえよう。
(社)日本図書館協会 選定図書
著者プロフィール
- 篠野 志郎(ササノ シロウ)
1949年山口県生。1972年東京工業大学卒。現東京工業大学大学院
総合理工学研究科人間環境システム専攻教授。専門:建築史。
1998〜2000年:第1次アルメニア共和国キリスト教建築遺構調査、
2002〜2004年:第2次アルメニア共和国キリスト教建築遺構調査。
2006年より東トルコの中世建築遺構調査。
著書:共著書に、『カフカース』(木村祟・鈴木董・篠野志郎・早坂眞理 編、彩流社、2006)、『写真集 アルメニア共和国の建築と風土 Out of the Frame』(篠野志郎 写真・文、彩流社、2007)などがある。
- 藤田 康仁(フジタ ヤスヒト)
1975年、東京都生まれ。2005年東京工業大学人間環境システム専攻博士後期課程修了。現在、東京工業大学人間環境システム専攻助教。博士(工学)。専門は、アルメニアやグルジアなど東アナトリア地域一帯のキリスト教建築史。
- 守田 正志(モリタ マサシ)
1977年、東京都生まれ。2008年東京工業大学人間環境システム専攻博士後期課程修了。現在、東京工業大学人間環境システム専攻特別研究員。博士(工学)。専門は、トルコを中心としたイスラーム建築、都市史。
- 黒津 高行(クロツ タカユキ)
1955年、福島県生まれ。1991年日本工業大学大学院博士後期課程建築学専攻修了。現在、日本工業大学教授。工学博士。専門は建築史。1998年日本建築学会賞(業績)共同受賞。近年は、地域文化資産の建築調査、カトマンズ盆地の仏教僧院街区の調査研究に取り組んでいる。
目次
●目 次
次 序─────────────篠野志郎
石の来歴(写真解説) ───────篠野志郎
序 失われた足跡
一 楽園を離れて
二 石の変容
三 複合化する空間
四 越境する空間
五 東アナトリアの歴史建築
跋 時の翼に乗って
遺構所在地図・遺構索引─────守田正志
王都アニの建築─────────藤田康仁
一 失われた都市
二 アニ文化圏の中・後期アルメニア建築の概要
三 アニ文化圏の中・後期アルメニア建築の特質
墓廟建築にみる建築技術の伝播──守田正志
一 中世のアナトリアにおけるイスラーム
二 アナトリアの墓廟建築研究の史的意義
三 工法にみる墓廟建築の分布
四 架構構成にみる墓廟建築の分布
五 外来と土着の建築技術の融合
用語解説・解説図版───────藤田康仁
解 題─────────────黒津高行
アマノシュウゾク イワセヨシユキシャシンシュウ アマノグンゾウ ゾクヘン チバイワワダ イチキュウサンイチ カラ イチキュウロクヨン 978-4-7791-1827-2 9784779118272 4-7791-1827-1 4779118271 0072 海女の習俗 岩瀬禎之写真集 海女の群像・続編 千葉岩和田1931-1964 岩瀬禎之 イワセヨシユキ いわせ・よしゆき
1904 年、千葉県御宿町生まれ。明治大学法科卒。
1933 年、海女の個展を皮切りに、写真展開催多数。
1957 年、「海女の群像」が内閣総理大臣賞受賞。
2001 年、97 歳にて没。
近著に『海女の群像 岩瀬禎之写真集[新装改訂版]
千葉岩和田1931-1964』(岩瀬禎之 写真・文、
安藤操 編、彩流社、2012年07月)がある。 彩流社 サイリュウシャ 写真集「海女の群像」の続編、発売決定!
(社)日本図書館協会 選定図書
「消えゆく風俗 後世に」と読売新聞(千葉県版、7月24日付)で大きく取り上げられた、
貴重な海女の写真集の続編が登場!海女たちの海と文化をたずねる。
写真家・岩瀬邸の書斎奥から偶然発見された未整理の海女写真集第二弾!!
現役海女たちの赤裸々な語りも特別収録!解説文「海女の文化と民俗」
(成城大学教授・小島孝夫)「岩瀬禎之インタビュー」など載録する!
未公表の写真、100点以上収録!
タグ: 写真集, 海女