戦争に向かう日本ーカナダの視座から日加関係史 1929-1941

日加関係史 1929-1941 戦争に向かう日本ーカナダの視座から

ジョン・D・ミーハン 著, 田中 俊弘 共訳, 足立 研幾 共訳, 原口 邦紘 共訳
A5判 / 372ページ / 上製
定価:3,500円 + 税
ISBN978-4-7791-1194-5(4-7791-1194-3) C0030
奥付の初版発行年月:2006年09月 / 書店発売日:2006年09月13日
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内容紹介

日加関係形成期の特徴づける密接な絆と楽観主義から「脅威の認識」へと変化する外交関係史。太平洋・東アジアと米英を視野に入れたアジアの強国日本に対するカナダの政策を政治、経済、社会、文化にも目配りして描く労作。(2006.9)

前書きなど

日本語版序文

 我々研究者は、自分が一旦表明した考えが他のどの範囲の人たちにまで届くのかを予見することなどできない。それゆえ、こうして自分の本の日本語版に序文を書いているのは思いがけない栄誉である。トロント大学に提出する博士論文としてこの研究を始めた頃にはその日本語版が出るとは予想だにしなかった。公の場に投じられたアイディアはそれ自体が独自に歩き始める。それは、何十年も友好的関係を享受してきた日加両国の初期の関係史を扱った本書についても同様である。
 日本人とカナダ人は両国関係史をより深く知ることによって多大な恩恵を受けることができる。筆者がこのテーマに関心を寄せるようになったのは、カナダとの豊かな交流史を持つ長野県松本市を一九九〇年代に毎年訪れたことがきっかけである。かの地で筆者はカナダ文化に好意的な多くの人々と出会った。そして彼らと個人的な強い交友関係を結べたことをとても嬉しく感じている。筆者は歴史家としての訓練を積んでいたので、自分が日加関係の起源を研究するのにふさわしいように感じられた。特にそれが歴史家には日本近現代史の「暗黒の谷間」として知られている難しい時代の出来事だったからこそ調べていきたいと思ったのである。日本とカナダはこの厳しい時代が始まる頃に外交関係の幕を開けた。そして両国とも戦争に向かっていくのを防ぐことができなかったのだが、本書によって読者が、平和を生み出す諸条件について、考えを深めるきっかけとなれば幸いである。
 日本人読者はおそらくカナダ人とは異なる視点から本書を手にとるのだろう。カナダに対する一般的な関心や直接的な知識を持っている人もいるかもしれない。この研究によって、カナダ外交のアジア・デビューについて多くの読者に理解を深めていただければと考えている。カナダのような西洋諸国が、不穏な時代の日本をどのように見ていたかに関心を持つ読者もいるだろう。本書は、最も親密な同盟国であるアメリカと英国の対応に影響を受けていたカナダの対日視座を提示している。本書はまず何よりも外交史を扱っているが、カナダ人——カナダのオピニオンリーダーや政策決定者たち、あるいはアジアにいる外交官や実業家、宣教師たち——が、日本とその国際社会での役割をどのように見ていたかを読者に伝えることも目的としている。個人についても文化についても、我々は他人が——その認識が正しいかどうかにかかわらず——自分たちをどう見ているかに興味をそそられるのは自然である。かつてスコットランドの偉大な詩人ロバート・バーンズが書いたように、「他人が我々を見るように自分たちを見ること」はある種の幸運である。カナダ人の視座を通した戦間期日本についての説明が、日本人読者にとってそのような機会を提供できるよう願っている。
 末筆ながらこの翻訳を可能にしてくれた人たちにお礼を述べたい。まず、筆者のアイディアや意見を日本語にしてくれた原口邦紘、田中俊弘、足立研幾の三氏に心から感謝したい。また邦語版の出版社を探す手伝いをしてくれた日本UNIエージェンシー株式会社の長塚妙子氏、翻訳者を探してくれた日本カナダ学会前会長の加藤普章氏、そしてこのプロジェクトを巧みに助けてくれた東京カナダ大使館の協力的なスタッフ——特に中山多恵子氏とレオ・ヨッフェ氏(元館員)——にもお礼を申し上げたい。カナダ首相出版賞という形でカナダ外務国際貿易省から寛大な助力をいただけなかったらこの出版は難しかったかもしれない。また、本書を出版するにあたって、太平洋問題に関するすばらしいコレクションに筆者の研究を加えてくれると決定してくれた彩流社——特に竹内淳夫社長——に負うところが大きい。この研究を通して、カナダの初期の対日関係の重要性が認識され、このテーマをさらに発展させたいという思いを抱いていただけるならば、筆者にとってそれ以上の幸せはない。
 二〇〇六年六月
                                       トロント大学にて
                                            ジョン・ミーハン

 訳者あとがき


 本書は、John D. Meehan, The Dominion and the Rising Sun: Canada Encounters Japan, 1929-1941(Vancouver: UBC Press, 2004)の全訳である。著者ジョン・D・ミーハンは一九六七年生まれのカナダ人で、マギル大学(一九八九年、歴史・ロシア学)および英国のオックスフォード大学マグダレン・カレッジ(一九九二年、神学)で学士号を得た後、一九九四年米国のジョンズ・ホプキンス大学で国際政治学(カナダ学)の修士号を、二〇〇〇年トロント大学で歴史学の博士号を取得した気鋭のカナダ史研究者である。原書は著者の博士論文 メFrom Ally to Menace: Canadian Attitudes and Policies toward Japanese Imperialism, 1929-1939.モ を土台としており、日加修交七五周年の二〇〇四年にブリティッシュ・コロンビア大学出版会から刊行された。
 原書の題名を直訳すると『自治領と日出づる国 カナダの日本との出会い 一九二九〜一九四一年』であるが、日本語版の題名は、戦間期の両国関係において、日本に対するカナダの認識の変化の態様を、専らカナダ側の視点から描いている原書の性格に配慮して、『日加関係史1929ミ1941 戦争に向かう日本—カナダの視座から』とした。
 第一次世界大戦を経て外交自主権を獲得したカナダは、アメリカ合衆国(ワシントン)とフランス(パリ)に次ぐ第三の公使館を設置する地として日本を選んだ。そして一九二九年に東京とオタワにそれぞれの公使が赴任し、両国間で公式の外交関係が幕を開けた。本書はその一九二九年前後から太平洋戦争開戦に至る時期に焦点を当てている。それは、カナダが国家としての発展を遂げた時期であったが、その一方で、世界大恐慌から満州事変、日中戦争そして太平洋戦争へと向かう緊迫した時代でもあった。そのためにこの書は、北米に位置するカナダという西洋の一国が、隣国アメリカと宗主国イギリスという両大国の政策を常に意識しながら、日本と中国を中心とする東アジアの諸問題にどのように対処したか、特に、帝国主義日本の行動にいかに対応したかを扱った事例研究となっている。日加関係の展開を軸にしながら、英米両国の姿勢や日中それぞれの立場を提示しており、太平洋、東アジアを舞台にした戦間期国際関係史の研究書という特徴を持つ。
 本書の特徴として次にあげられるのは、それが政治外交の枠を越え、実業界や宣教師コミュニティの反応を含めた厚みのある両国関係史を提示している点である。外務省、貿易商業省、国防省、軍関係の公的記録ばかりでなく、首相や主要政治家・官僚の私文書や太平洋問題調査会(IPR)をはじめとする各種団体および教会各派の一次史料、あるいは当時の新聞・雑誌などをふんだんに駆使して、政官界、実業界、各種団体、宗教界そしてマスメディア、それぞれの日本観、東アジア観の変容過程を多面的に描いている。当時カナダは中国に公使館を設置しておらず、また、経済的に見ると日本の方が遥かに安定していたために、政官ならびに実業界は当初日本の帝国主義を容認し、日本の側に同情的であった。一方、宣教師たちは、その活動地域の違いなどにより常に意見の分裂が見られた。本書はそれらの点を含め、日本やアジアに関与した多様なカナダ人の反応や対応を重層的に捉えている。
 同時に本書は正統なカナダ外交史の一冊であり、自由党のW・L・M・キング首相兼外相、保守党のR・B・ベネット首相兼外相、そしてその両者に仕えたO・D・スケルトン外務次官等を中心に、揺籃期にあったカナダ外務省が対日政策をどのように構築していったか、太平洋の安全保障問題にいかに対応したかを明らかにしている。国益擁護と英米協調の追求がカナダの一貫した主要関心事であったが、特に注目されるのは「キング日記」をはじめとする豊富な史料群の分析によって一九三〇年代を特徴づける諸問題——極東危機をめぐる集団安全保障、平和主義、軍縮、制裁、禁輸、宥和政策など——にキング政権がどのような認識の下に対応したかが詳細に論じられている点であろう。本書プロローグでも述べられているとおり、戦間期カナダ外交の研究書はこれまで総じて対ヨーロッパ政策に主たる関心が向けられてきたが、この時期にカナダや世界各国に難題を突きつけたのは太平洋・東アジアであり、そこで生じた安全保障に対する世界的規模の脅威への対応こそが、カナダ外交の特徴を明示しているのである。本書巻末の原書「参考文献」で言及されている日本側研究は英訳された文献等に限られているが、戦間期日加関係については他にも、太平洋戦争に向かう日加関係、カナダの日英同盟廃棄問題や言論界の対日認識、国際連盟におけるカナダの対応、日加通商紛争(貿易戦争)、太平洋問題調査会等々を対象とする一連の研究があることも付言しておきたい。
 本書がカナダの学界に登場したのは、二〇〇四年秋、ビクトリア大学で開催されたカナダ日本学会(Japan Studies Association of Canada; JSAC)の年次大会の会場であった。日加修交七五周年を記念する同大会には日本カナダ学会(Japanese Association for Canadian Studies; JACS)も合同参加していくつかのセッションを構成した。同会場で初めて披露された本書にいち早く注目した加藤普章JACS会長(当時)が、その場で日本へ紹介する意義について著者ミーハン氏と話題にしたことがきっかけとなり、我々三名で共訳することとなった。翻訳に当たっては、日本語版序文、謝辞、プロローグ、第一章、第二章および第三章と、地図、原書文献目録および索引を田中俊弘、第四章、第五章および第六章を足立研幾、第七章、第八章および第九章を原口邦紘が分担した。なお、本書には多数の人物が登場すること、国際関係史上の諸事件が交錯して盛り込まれていること、また、広い読者層を得たいという期待から、関連年表、主要登場人物一覧および訳注を、日本語版に新たに追加した。
 翻訳作業は、まず原書の全インデックスの日本語訳を作成し、主要な固有名詞の共通訳語を設定した上で、各自が担当箇所の翻訳を進めた。原書中の人名発音などについては、著者ミーハン氏来日の折、直接本人に確認し、本文中のカタカナ表記を決定した。翻訳原稿の語句の統一や訳文の表現ぶり等の調整面は、翻訳原稿を持ち寄っての読み合わせを行った他、Eメールを駆使して、担当者間で相互に訳文の確認作業を重ね調整をはかった。同時に、原書の文意や事実関係等につき、必要に応じて著者に確認し、いくつかの事実誤認については著者と協議の上、その同意を得て修正した。以上の作業を通じて、できるだけ全体の訳文の統一を図るよう心掛けた。

版元から一言

(社)日本図書館協会 選定図書

著者プロフィール

ジョン・D・ミーハン(ミーハン,ジョン・D.)

2000年 トロント大学人文科学研究科歴史学科修了、博士(歴史学)
現在 リジャイナ大学キャンピオンカレッジ専任講師。
論文 “Steering Clear of Britain:Canada and the Far Eastern Conflict,”International History Review,xxv,2(June 2003):253-81

田中 俊弘(タナカ トシヒロ)

麗澤大学外国語学部英語学科卒業。筑波大学大学院修士課程地域研究科前期課程修了。カールトン大学(カナダ、オタワ市)歴史学科留学。筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科単位取得退学。修士(地域研究、歴史)筑波大学歴史・人類学研究科TA。神田外語大学英米語学科非常勤講師、東京理科大学理工学部教養学科非常勤講師を経て現在、麗澤大学外国語学部助教授。
著書・論文に『新世界地理13アメリカ・カナダ』(分担執筆)朝倉書店、近刊。「移民による帝国強化の試み:1922年帝国移民法とカナダ」(『カナダ研究年報』第26号、2006年)「O・D・スケルトンとカナダの第二次世界大戦参戦」(『カナダ研究年報』第19号)「カナダにおける『大英帝国主義』から『孤立主義』への変遷:外務官僚ロリング・クリスティの転身を中心に」(筑波大学地域研究研究科『地域研究』第18号)などがある。

足立 研幾(アダチ ケンキ)

京都大学法学部卒。筑波大学大学院国際政治経済学研究科、オタワ大学大学院社会科学研究科客員研究員を経て、博士(国際政治経済学)。日本学術振興会特別研究員、筑波大学 社会科学系を経て、現在、金沢大学法学部助教授。
著書に『オタワプロセス−対人地雷禁止レジームの形成』 (有信堂高文社、2004)『現代韓国の市民社会・利益団体−日韓比較による体制移行の研究』(共著、木鐸社、2004)『現代日本の市民社会・利益団体』(共著、木鐸社、2002)などがある。

原口 邦紘(ハラグチ クニヒロ )

1970年 九州大学大学院文学研究科博士課程中退、文学修士(日本史学)。現在 外務省外交史料館編纂委員、中央大学法学部非常勤講師。著書・論文に『もっと知りたいカナダ』(共著、弘文堂、1989年)、『日米危機の起源と排日移民法』(共著、論創社、1997))、「戦間期の日系移民問題ー日加関係の視座からー」(『つくばカナダ・セミナー報告集:カナダと移民ー過去と現在ー』(第1号、1990年)、(インターネットにおいて)『公文書に見る日米交渉』(執筆)、『外務省執務報告亜米利加局全3巻セット』(解説執筆、クレス出版、1994)などがある。

目次

日本語版序文 1
謝 辞 4


プロローグ カナダ国旗を掲げる 13

第1章 東洋の窓 21

第2章 華々しい幕開けから恐慌期の外交へ 59

第3章 満州事変の勃発 89

第4章 国際連盟の失敗 125


第5章 嵐の前の静けさ 161

第6章 荒れ狂う愛国主義 193

第7章 荒々しい目覚め 233

第8章 戦争への道 267

第9章 太平洋の約束 307


訳者あとがき 324

原注 353
文献目録 359
索引 372

関連書

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