書店をたずねて三千里

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昭文社の地図

私の若い頃は、今と違ってスマホなんて便利なものはなく、携帯電話はあってもちゃんとした地図機能はなかったから、基本的に紙の携帯用ミニサイズの地図を持って、書店を営業してまわった。

特に昭文社の地図は、もしかしたら版元営業が買うことを狙ってそうしているのかもしれないと思うほどに、どの地図も書店の位置情報がちゃんと掲載されていて版元営業にとってとても見やすい地図だったので、特に地方出張の前などは、昭文社の県別の地図を買い、ルートを考え、出張営業を成功させるための戦略を練ったものだ。

時代は変わった。今ではipadを持って行けば、地図を買っていなくてもgoogleマップで該当地域を選択し、「書店」と検索窓に入れてエンターを押せば、あっというまに書店の位置と、現在地と、そこまでの距離まで計算してくれる。
便利だ。非常に便利だ。

でも……どこか物足りなかったりする。
なぜだろう。

2000年に私が彩流社に入社してすぐの頃、8月の太陽が照りつける真夏に、『神奈川の古墳散歩』という本を営業するために、神奈川のほとんど全ての路線に乗って書店を訪問し、まさにドブ板営業をしたことがある。その時にとても役立った昭文社の路線別の駅前情報地図は、今も会社の本棚に置いてある。そして異様な匂いを放っている。あの2000年の真夏に、私の手と、額から滴り落ちて地図に染み込んだ汗の匂いがする。

もう駅前の情報も、書店の情報も、14年以上経って古くて使えないデータばかりの地図なんだが、どうしても捨てられない。
あの頃の自分に恥じないような営業を今できてるのかと、時々この地図を手にして匂いを嗅ぐと、ふと考えることがある。

【文責 春日俊一】