オーラルヒストリー・三輪祐児 父と原発の記憶 第1回

第1回 プロローグ① 引き出しの手紙

木村英昭

6年前のことから書き始める。

2013年8月10日——。東京都心でこの日最高の37.0度を記録した。午後1時過ぎ、東京・西新宿にある新宿中央公園に到着した三輪祐児は汗だくだった。頭に巻いたバンダナはぐっしょりだった。いつものロードバイクの自転車で都心を駆け、自宅から1時間ほど掛けて着いた。

新宿区立区民ギャラリーに入った。リュックからハンディービデオカメラを取り出した。三輪は市民メディアUPLANを主宰している。この日から始まった展示イベント「反原発へのいやがらせの歴史展」に合わせたトークイベントの撮影を依頼されていた。2011年の東日本大震災を契機に、三輪は反原発や平和を求める市民活動を記録する活動に没頭していった。その活動の拠点にしたのがUPLANだ。

「反原発へのいやがらせの歴史展」では、原発に反対する市民や弁護士、研究者らに送られてきた嫌がらせの手紙やビラなどが紹介されていた。
トークイベントを前に、三輪は展示物を撮影した。「面白いな」「絵になるな」と思った。

一枚のイラストを見たとき、むずむずした思いを感じた。裸の女性が描かれていた。
「あれ、うちに似たようなものがあったような気がするなあ。似たようなことがあるもんだな。親父の机の引き出しに似たようなものが入っていたなあ」
この時、三輪は20年ほど前のことを思い出していた。1990年から数年後のことだったと記憶している。それは、探し物があり、父が暮らす都内のマンションに行った時のことだった。

*       *       *

父の引き出しを開けた。白い封筒があった。父に送られた手紙だった。日付は覚えていない。ファイルに保管されていた。三輪はその封筒を開けた。その手紙にはこう書かれてあった。
「あなたのように社会的に地位の高い人がこんなことをするとは信じられません。こんなものは受け取れません」
意味がよくわからなかった。そして、手紙と一緒に、裸体の女性のイラストが同封されていた。
そのイラストは、「反原発へのいやがらせの歴史展」で展示されていたイラストの筆致と似ていた。
三輪は歴史展の最終日である2日目も行った。しかし、むずむずした思いは消えなかった。

*       *       *

父は2012年12月に87歳で亡くなった。三輪はこの歴史展の前後から遺品整理に取り掛かり始めていた。歴史展で見た裸体の女性のイラストが気になり、三輪は以前見つけた封筒がないか、探し始めた。しかし、なかった。その代わり、父の手帳や業務日誌が見つかった。
父は大手広告代理店・電通のセールスプロモーション広報局(SP局)の展示設計部長(プロデューサー)をしていた。司馬遼太郎、岡本太郎、井上靖らとも親交もあったそうだ。

手帳や日誌のページをめくっていった。殴り書きの箇所はない。字も楷書で書かれ、丁寧だった。情報を整理するチャート図が描かれていた。
自宅から父のマンションに通いながらの遺品整理は、3年ほどかかった。
2016年のある日、イロハがるたの版下が出てきた。茶色のビニル袋に入っていた。三輪はハッとした。2年前の「反原発へのいやがらせの歴史展」で見たデザインやレイアウトとそっくりだった。
歴史展で見たものは、嫌がらせの言葉をイロハ歌にしてかるたに仕立てたものだった。反原発運動をする市民らの自宅に送りつけられていた。〈さあ殺せ 最後は得意の大の字だ!〉〈老学者 反原発で 生き返り〉……

三輪は思った。
「親父は反原発運動への嫌がらせに関わっていたに違いない」

同時に、意外には思わなかった。
「親父ならやりそうだな」

=敬称略
=つづく

父は絵画が得意だった。画廊が買い取るほどだった。父の大作の前に座る三輪祐児=東京都中央区のUPLANで

 

[プロフィール]
聞き手・木村英昭 (きむら・ひであき) ジャーナリスト。ジャーナリズムNGOワセダクロニクル編集幹事。朝日新聞社を2017年8月に退社、早大を拠点にしたジャーナリズムプロジェクトの立ち上げに参加、現在に至る。

語り手・三輪祐児 (みわ・ゆうじ) 1953年生まれ。市民放送局UPLAN代表。東日本大震災を契機にジャーナリズム活動を開始。3500本以上の動画をYouTubeにアップし続ける。

 

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