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鈴木邦男さんの『愛国と米国』

先日、たまたま平凡社新書の鹿島茂著『吉本隆明1968』を読んだ直後、鈴木邦男さんから同じ新書の『愛国と米国』が送られてきた。ともに「新書創刊10周年記念」ということで編集者の意気込みが著者に呼応して書かれた力作であった。
『愛国と米国』は全9章で構成されているが、特に印象に残ったのは「日米戦争に反対した右翼・赤尾敏」と「ナチスの「思想戦争」に籠絡された日本」の二つの章についてである。
赤尾敏は大日本愛国党総裁で銀座数寄屋橋で演説する姿を何度も見かけたことがある。赤尾は、戦前の東條英機内閣時代に、戦争を遂行する内閣に対して批判をして、「翼賛政治会」を除名された、国会議員待遇を剥奪されている。また戦争に反対した日本共産党の宮本顕治を高く評価していたということである。
愛国党は浅沼社会党委員長を刺殺した山口二矢や、夢の中での天皇殺害を描いた深沢七郎の『風流夢譚』の発売元である中央公論社嶋中社長宅を襲った小森一孝を生み出したが、その総裁の「反共産主義」思想の根底に「米国」と戦争せずの冷静な戦略があったとのことである。

「ドイツ・ナチス」についてであるが、戦中に日本はなぜ米英と戦争をして、ドイツと防共協定を結んだのかという疑問に、鈴木さんは1938年のヒトラーの明治神宮参拝やドイツの徹底した思想戦、宣伝戦に日本の見事にのせられた結果であると述べている。
「60年安保とケネディ大統領」は、小社から『ケネディ-時代を変えた就任演説』など5冊のケネディ本を出している土田宏さんの中公新書『ケネディ-「神話」と実像』を使ってケネディのアメリカを論じている。

本書で鈴木さんは、謙虚に自らの「反米愛国」思想を豊富な読書量をもとに分析していく。そこには左翼を反面教師として学んできた軌跡に、さらに右翼をも同じ視点で総括する「弁証法」を見ることができる。

『吉本隆明1968』は、いまだに「吉本主義者」を自任する仏文学者鹿島茂が若い世代のために書いた「リュウメイ本」であった。吉本を理解するには『共同幻想論』や『心的現象論』を読んでもダメで、初期作品の『初期詩集』をはじめ『芸術的抵抗と挫折』『擬制の終焉』『自立の思想的拠点』『高村光太郎』などを読むことが重要であると、自らの同時代体験を語りながら書いている。
特に印象的なのは、『高村光太郎』である。智恵子との関係を含む戦争賛美へ傾斜していく過程の分析は、改めて吉本の時代との葛藤を鮮やかに再現していて、われらの世代には懐かしい。(S)