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原民喜の初期幻想傑作集が出来て…。

すでに、発売になっておりますが…、見本が出来た日の朝のこと。
今日は、ちょっと特別な日。
自分の編集担当本が出来るときはいつも特別なのですが、本日見本が届いたのは原民喜のアンソロジーです。

彩流社からは長山靖生先生の編集で始まったオリジナルの復刻アンソロジーがあり、これまで『羽ばたき 堀辰雄初期ファンタジー傑作集』『詩人小説精華集』そして『丘の上 豊島与志雄メランコリー幻想集』を出してきました。
今回は編者に広島在住の天瀬裕康先生をお迎えし、原民喜のアンソロジーを出す事になったのです。
栃木県の日光に生まれ育った僕が、被爆地である広島のことを語る権利ってあるのだろうかと、原民喜の「夏の花」の新潮文庫を学生時代に読んで以来、ずっと思っていました。それがきっかけだったか、特に初期が大好きで愛読していた大江健三郎が『ヒロシマ・ノート』を書いたからかはよく覚えていませんが、原爆文学というものは自分なりにゆるやかにおいかけていました。そして、「文学における当事者性」というものもあるときからずっと自分に突き刺さっていました。
『ヒロシマ・ノート』を読んで、あれだけ好きだった大江が、自分の中でなぜか遠くに感じてしまい、当事者でなければやはり広島のことは語れないのかと重い思いをずっと抱いていて、それは今も続いています。そんな僕にとって、原民喜の文学は、どのように読めばいいのか分からないまま時だけが過ぎて行きました。
それは今も同じです。今回出来たアンソロジーは、被爆する前の原民喜が描いた初期の幻想的な小説を集めたものです。読んでいただくと分かるのですが、戦争の影が、原民喜文学の鍵語になる「夢」「死」「幼児回帰」を巡ってぐるぐるとえも言われぬ読後感を抱かせて止みません。
なぜか、原民喜の文学は僕には決して触れてはいけない思いばかりしていて、今回の初期作品は、そんな自分を許してあげてふれさせて欲しいと思いながら編集しました。
今日、出来上がった本を手にして、なんだか、とってもへんな気分がしていて、朝から一日ずっと落ち着きません。なにか、触れてはいけないようなことに、触れてしまったような、落ち着かなさしかなくて、なんか、不安な夜を抱えています。
でも、装画を担当してくださったYOUCHANがこれ以上にない素敵な世界を紡ぎ出してくださり、帰りの電車のなかでずっとカバーを見つめていました。今、冒頭から一編ずつ読み直しています。なんだか、今夜は眠れそうにありません。
(小鳥遊)