スペイン宮廷楽士物語ギター前史 ビウエラ七人衆

ギター前史 ビウエラ七人衆 スペイン宮廷楽士物語

西川 和子 著
四六判 / 255ページ / 上製
定価:2,200円 + 税
ISBN978-4-7791-1829-6 C0022
奥付の初版発行年月:2012年10月 / 書店発売日:2012年10月12日
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内容紹介

16世紀スペイン、ギターの前身楽器ビウエラが隆盛を極めていた。
40年間に7人のビウエリスタが7冊の譜本を出版し、そこに
収められた楽曲は、690曲を超えている。
 しかしその後、ビウエラは急速に姿を消し、20世紀になり、
ギタリストのエミリオ・プジョールが発掘するまで、400年間眠り続けた。
 本書は、7人のビウエリスタ(ミラン、ナルバエス、ムダーラ、
バルデラーバノ、ピサドール、フエンリャーナ、ダサ)の姿と、
突如消えたビウエラの謎を追ったものである。
ビウエラ、ギター奏者、愛好家必読の書!

前書きなど

はじめに



 舞台は、十六世紀スペイン、カール五世とフェリペ二世の、いわゆる黄金時代です。
 カールがフランドルのゲントに生まれたのが、西暦一五〇〇年のこと。偶然が重なり合ってスペイン王となり、さらに神聖ローマ帝国皇帝となり、ヨーロッパ狭しと駆け抜け、息子フェリペの時代には、「日没亡き帝国」と呼ばれるほどスペインはその領土を広げており、そのフェリペが、自ら精魂込めて築き上げたお気に入りのエル・エスコリアル修道院で生涯を閉じたのが、西暦一五九八年でした。ということは、この二人の時代でスペインの百年間を語ることができてしまうのです。
 そんな黄金時代のスペインに突如現れ、王侯も貴族も聖職者をも虜にし、高位な階級の人たちだけでなく、裕福な中産階級をも巻き込んでしまった楽器がありました。言わば一世を風靡したのですが、それこそが、宮廷楽器といわれる「ビウエラ」だったのです。
 ところで、カール五世にとってもフェリペ二世にとっても、音楽は生活の一部でした。その証拠に、カールもフェリペも、旅に出るときは、自らの聖歌隊をひき連れていきました。流行のポリフォニーの歌を耳にしないと、一日たりとも落ち着かなかったのです。
 教会でのミサには、美しく調和したポリフォニーが歌われます。世俗曲もポリフォニーが歌われま
す。フランドルで生まれ、フランドルの文化に誇りを持っているカールにとっては、フランドルで発展してきたポリフォニーは大切な音楽でしたし、子どもの頃から父の愛するポリフォニーを耳にしてきたフェリペには、なおのこと、そうでした。
 ビウエラは、そんなポリフォニーの声楽曲を器楽の曲にするのに、適した楽器でした。和音が出せて流れを作れて、しかも、いくつかの声部を同時に弾き分けることができたからです。
 ところが、フェリペ二世の時代が終わる頃、ビウエラも突然に姿を消しました。大きな歴史の流れで見れば、現れたときと同様、突如消えたのです。その後、ビウエラは四百年近く沈黙を守り、その長い眠りから覚めたのは、二十世紀も半ばになってからのことでした。ギタリストで作曲家で音楽史家でもあるエミリオ・プジョールが、この謎の宮廷楽器ビウエラを現代に呼び起こしてくれたのです。
 何故、ギタリストが発掘したのでしょうか。
 今のわれわれから見ると、ビウエラはギターに似ています。むしろ、そっくりです。現代のギターを少し細く薄くし、複弦にして、そして装飾を施せば、ほとんどビウエラです。ギタリストなら、そんなビウエラの存在は気になるのです。ギターの先祖はこの謎めいた楽器、ビウエラなのだろうか、どんな歴史的必然がギターを生み出したのだろうか、と。そんなことから、ビウエラ音楽とその楽譜を、ギタリストが蘇らせたのでしょう。

 では、ビウエラの楽譜はどのくらいあるのでしょう。
 十六世紀、スペインに印刷術と印刷業者が浸透し始めていた頃、七人のビウエリスタ(ビウエラ弾き)たちが、立派な譜本を残しました。かなりの部数が印刷され、刊行されたのです。収められた曲は、合わせて約六九〇曲。一生弾いて楽しんで、たまには人前で弾いて聴いてもらって、さらにおつりが来る程の多さです。
 この七人のビウエリスタを、譜本を出した順に並べてみます。

   ミラン
   ナルバエス
   ムダーラ
   バルデラーバノ
   ピサドール
   フエンリャーナ
   ダサ

 七人の身分は様々でした。ある者は良き血を引く宮廷人でしたし、ある者は今を時めく貴族の館に仕えていました。王家の音楽教師になった者もいれば、王妃付きの楽士になった者もいます。彼らは晴れて宮廷楽士でした。そうかと思えば、そんな華やかな暮らしとは縁遠く、静かに一介の市井人として生きた者もいました。
 暮らした土地もばらばらでした。ある者は地中海沿岸の温暖なバレンシアで、ある者は当時の首都ともいうべき内陸部の町バリャドリッドで、ある者は太陽の降りそそぐ南のアンダルシア地方グラナダで生まれ、ある者は生まれた土地で暮らし、ある者は生まれた土地を遠く離れて暮らしました。ヨーロッパ諸国を王子に従って旅した者もいれば、一生をひとつの町でひっそり暮らした者もいました。
 そんな彼らに共通しているのは、ただただ、同時代のスペインを生きたことと、生涯ビウエラを弾き続けたこと、だったのです。

 ビウエラは高貴な音がすると言われます。品格があるとも言われます。そして、ビウエラ音楽を聞くと、不思議と、背筋を伸ばしたくなるのです。残響時間がそれほど長くはなく、音が鮮明にはじけ飛んでいくからかもしれませんが、一方で、曲そのものの中に十六世紀の一種独特な厳格さや荘厳さが潜んでいるからなのでしょう。ビウエラは優しい心を表すと言われます。昔懐かしいとも言われます。それは、古くからスペインに伝わるロマンセやビジャンシーコを基にした曲が多く作られているからなのでしょう。
 この本は、そんな時代に貴重なビウエラ曲を残した、七人のビウエリスタたちの姿を追ったものです。十六世紀を輝かせる宝石のような曲の数々を生んでくれた人たちです。
 ビウエラの、澄みきった、しかし、意志の力を伴った音楽を思い浮かべつつ、
 「ギター前史 ビウエラ七人衆」の頁を繰っていただければ、幸いです。

版元から一言

(社)日本図書館協会 選定図書

◎紹介されました!(掲載情報についてはコチラ

著者プロフィール

西川 和子(ニシカワ カズコ)

スペイン史研究家。
著書に『スペイン宮廷画物語』(彩流社、1998年)、『スペイン十八世紀への招待』
(彩流社、2000年)、『狂女王フアナ』(彩流社、2003年)、『スペインフェリペ二世の生涯』
(彩流社、2005年)、『スペインの貴公子フアンの物語』(彩流社、2007年)、
『オペラ「ドン・カルロ」のスペイン史』(彩流社、2009年)などがある。

目次

はじめに
第1章 カール五世の話
 〈カフェタイム1〉 ジェルメーヌ・ド・フワ
第2章 バレンシア宮廷には、優雅で気品あふれる
ミラン
 〈カフェタイム2〉 ビウエラという楽器
第3章 カール五世の側近コボスの館には、自信家
ナルバエス
 〈カフェタイム3〉 フェリペ王子の結婚── 1543 年
第4章 大公貴族のもとから聖職者へ、宿命だった
ムダーラ
 〈カフェタイム4〉 カール五世の敵と健康問題
第5章 謎のビウエリスタ、繊細で優しいバルデラー
バノ
 〈カフェタイム5〉 フェリペ大旅行── 1548 年
第6章 宗教界大物の孫、一途で甘美なピサドール
 〈カフェタイム6〉 ビウエラ曲のこと
第7章 美しい音の流れを求めた、フエンリャーナ─
 〈カフェタイム7〉 カール五世の退位と隠遁── 1556 年
第8章 時に遅れて生まれた、ダサ
 〈カフェタイム8〉 当世印刷出版事情
第9章 ビウエラの終焉と復活
執筆を終えて
[系図1〜10]

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