〝ストロング・メディスン〟 家族と部族を語るアメリカ先住民女性の現代史

アメリカ先住民女性の現代史 〝ストロング・メディスン〟 家族と部族を語る

エイミー・ヒル・ハース 著, 佐藤 円 訳, 大野 あずさ 訳
A5判 / 320ページ / 並製
定価:2,800円 + 税
ISBN978-4-7791-1826-5 C0022
奥付の初版発行年月:2012年09月 / 書店発売日:2012年09月18日
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内容紹介

先住民部族女性長老のオーラルヒストリー。知られざる東部先住民の姿を活写!

アメリカ合衆国東部において、存在してはいけない存在として「素性」を
隠しながら、「黒人の振り」や、時には「白人の振り」をすることによって
生き延びてきたナンティコーク・レナ=ラナピ族。
その長老〝ストロング・メディスン〟がネイティブ・プライドをもった
自らのアイデンティティとその生き方を語り、現代社会が喪失している
家族や共同体の絆の在り方を突きつける。
 本書は、ハリウッドが作り出したステレオタイプのインディアンイメージを
破壊し、西部に追いやられた先住民とも異なる“差別”のなかで生き抜いた
“生の歴史”を伝える好著。
 詳細な訳注を付けて、先住民に関する“読む歴史事典”としても活用できる。

前書きなど

 この本は、あるアメリカ先住民部族の、とりわけその有力なメンバーの一人であるストロング・メディスンという名の女性長老の体験を通して、現代に生きるアメリカ先住民の人生を、その内側から見つめたというめずらしい本です。
 またこの本には、いくつかの点で特筆すべき独自性があります。それらは、ハリウッドが作り出した恥ずかしがり屋で消極的だというアメリカ先住民女性のステレオタイプを打ち消している点、アメリカの歴史において重要な役割を演じながらも、大衆文化のなかではほとんど見過ごされてきている東海岸の先住民部族に焦点を当てている点、最初から部族の指導者たちの助言や許可を得ながら書かれたといった点です。
 私たちは、多くの人々の声を聞こうとしない文化のなかで生きています。それゆえ、洞察力や経験、そして異なる視点といったものは失われていくのです。たいてい私たちの耳に届かないのは、マイノリティや女性や老人といった人々の声です。しかしそれらには、語られることを待ち続けている物語や、すぐにでも分かち合うことができる知恵が宿っているのです。私たちが共に笑い、泣き、耳を傾け、他者から学ぼうとしさえすれば、他者と私たちを隔てる壁は消え始めます。
 〈中略〉
 興味深い事実を挙げれば、私は繰り返し(歴史家、研究支援を行う司書、ジャーナリストなどを含む)専門家たちから、この部族は外界からの孤立を好むことでよく知られており、よそ者には敵対的であり──おそらくそれはラナピ族を祖先に持つ者に対しても同じであるだろうと警告されました。(私はその後、「我らはこの世で一番友好的な民族だが、我らを手荒く扱う者たちはずっと後悔することになる」がこの部族の非公式のモットーであることを学びました。
 〈中略〉
 転機は二〇〇五年の四月にやってきました。部族のメンバーが、ワシントンDCにあるスミソニアン協会が新たに開館させた国立アメリカ・インディアン博物館を見学するためにバス旅行に出かけたのです。私は一緒に来ないか、(さらには夫のブレアまでも連れてくるように)と誘われました。それ以後、私は部族の非公開の宗教行事にも参加することを許されるようになりましたが、それはめったによそ者を招かないものでした。
 二〇〇五年の五月、そのような宗教行事の一つで、私はストロング・メディスン〔強い薬〕という愉快で魅力的なインディアン名を持つ八三歳になる部族の長老であり、指導者でもある女性と会いました。私たちは宗教儀礼が始まる前に、聖なる輪のところで、族長である彼女の息子によって引き合わされたのです。
 その宗教儀礼が終わった後、そのストロング・メディスンという名の女性(彼女のフルネームはマリオン・〝ストロング・メディスン〟・グールドと言います)は、森を抜け、食事が用意されているテントが張られた場所まで、私が彼女と一緒に歩いて戻る機会を与えてくれました。身長が五フィート六インチあり、他の大方の女性たちよりも背が高い彼女は、肉体的にはとても壮健でした。彼女があまりにも早く歩くので、私はあわてて彼女についていかなければならないほどでした。
 天性の教師であり、ヒーラーであり、養育者である彼女は、私の面倒を見ることや、私にラナピ族の生き方を教えることをすぐに決心したようでした。 〈後略〉
                    (エイミー・ヒル・ハース「はじめに」より)


版元から一言

 本書は、ジャーナリストであり作家でもあるエイミー・ヒル・ハース(Amy Hill Hearth)が、アメリカ先住民の女性長老であるマリオン・〝ストロング・メディスン〟・グールド(Marion “Strong Medicine” Gould)にインタビューしてまとめた、〝ストロング・メディスン〟の自伝“Strong Medicine” Speaks: A Native American Elder Has Her Say, 2008を全訳して、訳註をつけたものである。序章と終章を除く本文は一一部二七章構成となっているが、各部の導入部分にはハースによる解説があり、その後に続く各章で〝ストロング・メディスン〟の語りが展開されている。

 本書の主人公であるマリオン・〝ストロング・メディスン〟・グールドは、一九二二年にアメリカ合衆国東部の大西洋岸にあるニュージャージー州南部で生まれ、生涯をその地域で過ごしてきたアメリカ先住民の女性である。一般に「インディアン」と呼ばれるアメリカ先住民は、アメリカ合衆国の西部で暮らしている人々であるとの印象が広まっているが、そもそもヨーロッパ人が到来する以前のアメリカ大陸では、あらゆるところで先住民が暮らしていたのである。それにもかかわらず今日先住民の多くが西部に暮らしているとするならば、それは彼らがその地へと追いやられてきた歴史を反映しているからに他ならない。しかし現実には、すべてのアメリカ先住民が西部へと追いやられたわけではなかった。一部の人々は「白人」による圧迫や支配を受けつつも、なお本来の居住地に留まり続けたのである。そのようなアメリカ先住民の部族やコミュニティが、今日でも東部や南部にいくつも存在している。〝ストロング・メディスン〟が属するナンティコーク・レナ=ラナピ族(The Nanticoke Lenni-Lenape Indians)もそのような先住民部族の一つであるが、彼らが経験してきた歴史は、これまで紹介されてきた西部のアメリカ先住民の歴史とは異なる点が多くあり、本書の日本語での出版は、そのあまり知られていない歴史を日本の読者に紹介する良い機会になると考えている。
 さて、多くのアメリカ先住民と異なりアメリカ合衆国の東部に残留した人々であるという特徴の他に、〝ストロング・メディスン〟が属するナンティコーク・レナ=ラナピ族には、「人種」的に多様であるというもう一つ別の特徴がある。そもそも一般に「人種」と呼ばれている人類の分類概念は、生物学上一つの「種」であるため実際には分類不可能である人類を、無理やり分類するために社会的に構築されてきた概念である。そしてそのことは、すでに学問の世界では常識となっている。しかし現実の社会では、依然として「人種」が様々な制度化圧力をともなう社会的装置として影響力を保持し続けていることも事実である。特にアメリカ合衆国においては、個々人の「人種」的属性が、しばしば政治的に、あるいは社会的に重要な意味を持つため、アメリカ先住民たちも自らの「インディアン」としての「人種」性を強く意識している(させられている)場合が一般的である。しかし〝ストロング・メディスン〟が属するナンティコーク・レナ=ラナピ族は、植民地時代の初期から現在に至るまで約四〇〇年にわたって「白人」や「黒人」と生活空間を共有してきたことによる「混血」の結果、今日「人種」的には実に多様で、身体的に複雑な集団となっている。このような身体的多様性や複雑性を抱えつつ、ナンティコーク・レナ=ラナピ族が、民族的アイデンティティを維持して、集団としては「インディアン」であり続けてきたということが、当事者にとってどのような歴史的経験をもたらしてきたのか。それを教えてくれるという点でも、本書は非常に興味深いものとなっている。
                        (「翻訳にあたって」より)

(社)日本図書館協会 選定図書
◎紹介されました!(掲載情報についてはコチラ

著者プロフィール

エイミー・ヒル・ハース(ハース,エイミー・ヒル)

アメリカ合衆国マサチューセッツ州生まれのジャーナリスト・作家。1993年に初の著作Having Our Say(樋口映美訳『アメリカ黒人姉妹の一世紀』彩流社、2000年)を出版してベストセラーとなる。本書は七作目の著作。2012年秋には自身初の小説Miss Dreamsville and the Collier County Women’s Literary Societyが出版される。

佐藤 円(サトウ マドカ)

東京都世田谷区生まれ。大妻女子大学教授。立教大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。専門はアメリカ先住民史。主要業績は、『アメリカの歴史を知るための62章』明石書店、2009年(共編著)、ロナルド・タカキ『多文化社会アメリカの歴史―別の鏡に映して』明石書店、1995年(共訳)、ジェームズ・W・ローウェン『アメリカの歴史教科書問題―先生が教えた嘘』明石書店、2003年(共訳)、「インディアンと『人種』イデオロギー」川島正樹編『アメリカニズムと「人種」』名古屋大学出版会、2005年所収、「チェロキー族における『市民権問題』」歴史学研究会編『由緒の比較史』(シリーズ歴史学の現在12)青木書店、2010年所収。

大野 あずさ(オオノ アズサ)

神奈川県川崎市生まれ。大阪経済大学准教授、立教大学客員研究員(アメリカ研究所)。アリゾナ州立大学歴史学部博士課程修了。博士(歴史学)。専門はアメリカ先住民現代史。主要論文は“The Fight for Indian Employment Preference in the Bureau of Indian Affairs: Red Power Activism in Denver, Colorado, and Morton v. Mancari” The Japanese Journal of American Studies, No.22 (日本アメリカ学会、2011年)、「アメリカ・インディアン都市移住計画(1952~73年):アメリカ先住民の都市化とコロラド州デンバーにおける汎インディアン・コミュニティの形成について」『大阪経大論集』、第61巻第2号(大阪経大学会、2010年)。

目次

まえがき
はじめに
第Ⅰ部 素性を隠した人々
 第1章 存在すら知られていない土地で
 第2章 「大地は〝母親〟、大空は〝父親〟なの」
第Ⅱ部 先祖代々伝わる土地で
 第3章 私の家系
 第4章 弟や妹が小さかった頃
 第5章 フィラデルフィアでの生活
第Ⅲ部 自転車に乗った男の子
 第6章 学校に通っていた頃
 第7章 ウィルバー・グールドとの出会い
第Ⅳ部 「お知らせするのは残念ですが……」
 第8章 徴兵された夫、私は銃後で……
 第9章 ウィルバーの帰還
 第10章 テロの恐怖──身近にクー・クラックス・クラン
第Ⅴ部 仕事を持っている母親
 第11章 洗濯屋と縫製工場での出来事
 第12章 働く母の子育て──家族、親戚、インディアンとして
第Ⅵ部 時代の移り変わり
 第13章 公民権運動の影で……
 第14章 母さんと弟の死
 第15章 〝不幸な子供たち〟──家族の絆が崩れるとき
第Ⅶ部 女性の世界
 第16章 「女はもともと強いものなの」
 第17章 夫を陰から支える
第Ⅷ部 ネイティブ・プライド
 第18章 神と創造主、信仰の自由のないアメリカ人
 第19章 アメリカ史の汚点──「保留地」という思想
第Ⅸ部 一巡りしてもとの場所に戻る
 第20章 部族のための土地購入──世代をつなぐ
 第21章 息子がつけたインディアン名〝ストロング・メディスン〟
 第22章 息子ジェフの死
第Ⅹ部 現代の生活
 第23章 インディアンの生き方──「老人と子供が最優先よ」
 第24章 「子供たちを独立させなさい」と親に言いたい
第Ⅺ部 最後の言葉
 第25章 悪化する自然環境の中で
 第26章 最愛の夫をわが家で看取る
 第27章 「創造主が天国へ呼び戻すまで、ここにいるつもりよ」
「ワニシ」(「ありがとう」)──おわりに
訳者解説──あとがきにかえて
日本語参考文献

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