現代カトリック系作家の想像力作用のパターンマリア・クロス

マリア・クロス 現代カトリック系作家の想像力作用のパターン Maria Cross

ドナト・オドンネル 著, 山形 和美 訳
四六判 / 410ページ / 上製
定価:4,000円 + 税
ISBN978-4-7791-1699-5 C0098
奥付の初版発行年月:2011年12月 / 書店発売日:2011年12月16日
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内容紹介

アイルランドの優れた批評家ドナト・オドンネルの文学批評の名著の初訳!
 ドナト・オドンネル(本名ドナト・オブライエン)は、歴史家であり、随想家であり、ジャーナリスト的政治評論家であり、学者であり、政治家であり、本職は外交官で、閣僚(ほとんど四年間)も経験し、その他多くの役職に就いた人物である。そして同世代の多くのアイルランド人と同じように、フランスの文化に深く影響された知識人であった。
 本書に収録した「フランソワ・モーリヤック秘密の扉」で文学批評家として認知され、1940年代のネオ・カトリック系の小説家たちについての批評を展開した。
 本書では、各作家にカトリシズムの浸透によって精彩に富む想像力の作用が如何に表出されたかの実例を抽出し、最終章「マリア・クロス」では、これらの個々の様態の共通項を展開し、キリスト教作家の内面構造の比較を試みる傑作。

前書きなど

緒 言


 想像力が作り出す文学がカトリック的でありうるかどうかという疑問に今まで多くの偉大な作家達が答えを出そうと試みてきた。そのうち枢機卿のJ・H・ニューマン〔John Henry Newman, 1801-90. 英国のカトリック神学者・文人、初め国教会に属し、 Oxford movement を推進、のちにカトリックに改宗し、枢機卿となった〕、作家のレオン・ブロア、同じく作家のアンドレ・ジッドなどは否定の態度に傾いていた。ジャック・マリタン〔Jacques Maritain, 1882-1973. フランスのカトリック哲学者・外交官)などは聖トマス〔アクイナス Saint Thomas Aquinas, c. 1225-74. イタリアの神学者、スコラ哲学の大成者。イタリア語名 Tommaso d'Aquino; Summa Theologica(神学大全、1267-73〕の見方を解釈して、肯定の立場を信じた。確かにカトリック教徒作家の想像力はその宗教に深甚な影響を及ぼすことはあり得るが、それがどのように影響するのか、その影響の仕方をあらかじめ予告することは容易ではない。
 私はここではそれを予告しようとはしなかったが、カトリシズムに浸透されている幾つかの例外的に精彩に富む想像力作用の実例の様態を出来るだけ見失わないようにした。本書の最終章で私は、これらの個々の様態が共通して持っているように見えるものを記録しておいた。このような幅広い様態がカトリシズムの一般的な情緒的な相関性を表わすと、私は主張しているのではない。もしくは科学的な意味で何かが証明されているとすら主張しているのでもない。問題の作家たちが確かに【カトリック文学】の代表的見本として取り上げられたわけではなく、彼らが私の関心をもっとも引いた現代のカトリック作家のなかの幾人かであっただけである。彼らの作品を研究するときに私が用いた方法が質問事項の均一性を主張するものではない。
 私が従おうと務めてきた科学的精神が要求する唯一の態度とは、事実に対する敬意のことである。本書の各々の試論は、研究の対象たる作家の想像力作用にとって重要だと思えるものの様態を追求しているのであって、批評次元のテーゼにとってもっと都合の良いものであったかもしれない従属的な様態ではない。ここで論じられている存命中の作家自身が私の試論を自分で読むことがあれば、私の見方に同意しないこともありうるだろう。そうなったとしても、批評家は不当なほどに動揺する必要はない。
 G・K・チェスタトン〔Gilbert Keith Chesterton,1874-1936. 英国のカトリックの文筆家。警抜な着想と逆説的な筆法とで有名。FATHER BROWN を生み出した〕はその『骨董屋』〔The Old Curiosity Shop〕という著作の序文で、貴重な定義を与えているが、これには後のカトリック教徒の批評家たちはほとんど注意を向けていない。「批評の機能」は、とチェスタトンは書いている、「それがいやしくも合法的な機能を持っているならば、それは一つの機能でしかありえない――つまりそれは、批評家だけが表現できる著者の精神の意識下の部分を扱うという機能であって、著者自身が表現できる著者自身の精神の意識的部分を扱うという機能ではない。そのような批評は批評として少しも有効ではない(これは弁護可能な立場ではあるが)。さもなければ著者に関して著者自身をびっくりさせるようなことを言う批評が有効ということになる。」
                 
   アイルランド、ホワースにて                  ドナト・オドンネル
   一九五二年一月

版元から一言

本書はアイルランドの優れた批評家ドナト・オドンネルの文学批評の名著Donat O’Donnell, Maria Cross (Chatto & Windous,1954,London)の全訳である。これは、本書の副題にあるように、「一群の現代カトリック系作家の想像力作用のパターン」(Imaginative Patterns in a Group of Modern Catholic Writers)の研究の批評的著作である。ドナト・オドンネルというのは本書でも用いられているが、それはドナト・オブライエンDonat Obrienのペンネームである。
(中略)
 私たちが本書で向き合うドナト・オドンネルの文学批評家としての才能の優秀さには、どの読者も感動するに違いない。そのような意味で、本書の批評的作業としての素晴らしさはめったに遭遇できない類のものである。長い間国内外の批評とつきあってきた私も、この『マリア・クロス』ほどの批評的作業に出会ったことはないのである。取り上げられる各作家の作品世界の読みの巧みさは批評世界では希有なるものであるこれが、私が本書の翻訳に乗り出した主な理由である。
 だが、オドンネルの文学的卓越性は、彼の政敵たちを悩ました。というのは、彼のこの文学的卓越性によってオドンネルは他の政治家たちとは異なる階層の人になっていたからである。現在のアイルランドの閣僚で、いやイギリスやアメリカの閣僚で、ミシュレとかモーリヤックとかカミュなどについて秀逸な文章が書ける人はいないのではないか。オドンネルはジョイスの才能を認めている。だが、オドンネルの真のヒーロはエドマンド・バークやイェーツであった。オブライエンの長いイェーツ論(“Passion and Cunning”)はイェーツの生誕百年を祝って書かれたものだが、これはこの詩人について今まで書かれたもので最高の文章の一つとして広く見なされているし、二〇世紀アイルランドを理解することを願う人にとっての最高の導入論文の一つとなっている。
 なお、『マリア・クロス』が献呈されているクリスティーヌという人は、オドンネルが大学生の時に結婚し、のちに離婚した女性で、彼女はそのときの彼の先生の娘であった。(「訳者解説」より)

(社)日本図書館協会 選定図書

著者プロフィール

ドナト・オドンネル(オドンネル,ドナト)

Donat O’Donnell 本名はドナト・オブライエン。アイルランドの文芸批評家。
1917年 ダブリンで生まれ。2008年 91歳で死亡。
本職は外交官だが、閣僚も経験した政治家であり、同時に歴史家、随想家、
政治評論家、学者としての多面的な顔を持った才人である。
主な著書に
観点が独立的であるのが特徴的なイスラエルに関する著作 『包囲』
エドマンド・バークの伝記である 『大いなるメロディー』
学問的な歴史家として評価されている 『パーネルとその党派』
妻との共著で有益な要約調査で何版かを重ねている『要約アイルランド史』
イェーツの生誕百年を祝って書かれた長いイェーツ論『巧妙と受難』 など。

山形 和美(ヤマガタ カズミ)

1934年生まれ。東京教育大学大学院文学研究科修士課程修了。文学博士(筑波大学)。
筑波大学名誉教授。
主な著書・訳書『グレアム・グリーンの文学世界』(研究社出版)
『言語空間の崇高性──ロゴスへの意志』(彩流社)
『日本文学の形相──ロゴスとポイエマ』(同)
『G・K・チェスタトン』(清水書院)
『グレアム・グリーン入門』(彩流社)
『差異と同一化──ポストコロニアル文学論』(研究社出版、編著)
スーザン・ハンデルマン『誰がモーセを殺したか──現代文学理論におけるラビ的発想の出現』(翻訳、法政大学出版局)
エドワード・サイード『世界・テクスト・批評家』(同)
ノースロップ・フライ『力に満ちた言葉』(法政大学出版局)
スティーヴン・マークス『シェイクスピアと聖書』(日本キリスト教団出版局)
アーサー・シモンズ『象徴主義の文学運動』(平凡社ライブラリー)
T・R・ライト『神学と文学』(聖学院大学出版会)
ウイリアム・キャッシュ『グレアム・グリーンと第三の女』(彩流社)ほか

目次

Ⅰ フランソワ・モーリヤック――秘密の扉
  1 太陽と雨
  2 女性と少年たち
  3 カトリック教徒と小説家
Ⅱ ジョルジュ・ベルナノスのファウスト
Ⅲ グレアム・グリーン――憐れみの詳細綿密な分析
Ⅳ ショーン・オフェイロンのアイルランド自治政策
Ⅴ イーヴリン・ウォーの敬神
Ⅵ 記憶の聖霊の宮――シャルル・ペギー
Ⅶ ポール・クローデルのラインの黄金
  1 黄金
  2 水
  3 水と黄金
Ⅷ レオン・ブロアのパラダイス
Ⅸ マリア・クロス
訳者解説——あとがきに代えて

参考文献
索引

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