男とは何か?男性性で読み解く日米の戦争と平和ハラキリと男根開示

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歴史から学ぶ ①
ハラキリと男根開示 男とは何か?男性性で読み解く日米の戦争と平和

巨勢 逆 著
四六判 / 249ページ / 並製
定価:1,900円 + 税
ISBN978-4-7791-1535-6 C0030
奥付の初版発行年月:2010年05月 / 書店発売日:2010年05月21日
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内容紹介

男とは何か? 自己抹殺と自己顕示の差は日米男性文化の差である。グローバル・スタンダードというノッペラボーの世紀に、伝統文化と精神の発露としての男性性の表出のあり方を、戦争と平和という命を賭した行動のなかに読み解く歴史エッセイの傑作。

前書きなど

はじめに

 アメリカでは男はペニスで考える、などという。「自覚しても制御できない、もう一つの精神」と呼ぶ書物があるくらいだ。

自己抹消のハラキリと自己主張の男根開示
 日本では、男の覚悟を示す言葉の極限は、「もし俺の言ったことにうそ偽りがあるのなら、その時は切腹してみせる」などといったものだ。男が男であることを恥じらいも無く堂々と男社会の中で振舞っていた時には、帝国議会の議場で、「切腹」談義の応酬があった。
 アメリカの男性文化の中で「切腹」に匹敵する「自裁」はない。自己の主張が正しいと抗弁するとき、アメリカの男はどう振舞うのか。
 普段は社会の窓の陰に潜んでいるものを開示する男がいた。大政治家リンドン・ジョンソン大統領だ。ベトナム戦争がエスカレートするばかりで、一向に収束しそうに見えないとき、報道関係者に問い詰められた大統領は、ごうを煮やして、「俺のこれがゆるさぬのだ」と、存在感のあるいちもつを取り出して見せた。
 切腹と男根開示の差は日米男性文化の差である。一方の自己抹殺と他方の自己顕示である。同じ肉体の演技であっても、その差は天地の差ではないか。
 西洋文明を国策として受容してしまってからでも日本では、九十九里の漁民も薩摩の農民も当たり前に素っ裸で働いていたから、いちもつで威示はなりたたない。いちもつを褌の陰から握りだして見せて、それで自己主張の正しさを保証するなんてのは見た事も聞いたこともない。
 古来ペニスは豊穣のよりしろとして祭祀の対象になってきた。日本国内、津々浦々、谷間の山村でも共同体の存するところには、木製かまたは自然石で男根と女陰がセットになって祀られていたものだ。
 古代アラブ世界、古典ギリシャのアテネ、そして古代ローマも、生活文化は豊穣と力を象徴するペニスが支配していた。
 しかしキリスト教文化は、ありのままの男性性を否定する。肉体と精神の二元論的対立から、性欲の否定に向かった。男性は救いのために、女性との性交渉を絶たねばならず、女性はたとえ夫の欲求であろうとも、拒否せねばならぬものとさえなることがあった。
 古代キリスト教の最初の哲学者とされるオリゲネス(一八五─二五四)は天の神の国に行き着く前に、現世にその祝福を見んものと、自らの睾丸を抜いた。

戦争と女性 
 兵士としての女性が男性と同じに遇されるということは、フェミニズムがもたらしたジェンダー・ニュートラルな、欧米先進国のキリスト教文化のもとで、理論的にも社会的にも確立されたといえる。しかしイスラム圏の社会では、オサマ・ビン・ラーデンのアルカイダのように、男女は画然と分離され、兵士たることは、男性の特権であり聖域であるという原理主義に立脚している。
 日本では武士の妻、娘のサムライ的行動を当然のこととした。敗戦がもはや歴然としていた時、一億玉砕の本土決戦のために、陸海軍の動員兵力二百四十万に加えて国民義勇戦闘隊二千八百万が構想され、十五─六十五歳の男子と共に十七─四十五歳の女子が組み込まれる事になっていたのである。
 そして敗戦、連合国の兵士が占領統治に、上陸してくるとなると、婦女子には操を守るために、これを服用せよと、役所から毒物が配給されたときいている。さらに男子にとって由々しきことと思われたのは、食塩の生産消費は禁止されるとうわさされた。そうなると日本人男子は生殖能力を失い、日本民族は根絶やしになるということだった。「亜鉛は男の勢力剤」生殖能力を高めるという。何かの聞き間違いだったのだろう。科学的にそうなのかどうか、少年の我々はただ民族の滅亡とは、こんなふうに来るのかなと思ったものだ。
 そのときアメリカ本土のある意識調査では、世界の平和を乱す危険な民族、日本人に対しては、人種改良しかないとして、その方策として提案されたのは、男子には断種手術を施し、女子には最も典型的なアメリカ人男子の精子で、人工受精せしめよというのであった。

戦前男子教育の完成品特攻戦士 
「戦争が教科書をつくり」「教科書が戦争を作った」といわれるように、近代国家日本は義務教育をフルに使って、国民皆兵の実をあげていった。教科書だけではない、新聞雑誌のみか映画、演劇、人形浄瑠璃まで、一九三二年二月二二日の爆弾三勇士を事実からかけ離れた軍国美談にしあげていった。教科書に取り上げられたのは小学校が国民学校と呼称換えした昭和一六(一九四一)年、真珠湾攻撃の年のことであるが、己を「爆弾」に変える特別攻撃隊の原型が示されたのである。
 戦前の日本では、確かに男子は物心ついた時から、兵士になるための社会化のプロセスに乗せられていた。鯉幟、武者人形の端午の節句である。そして「虎は死して皮を残し、人は死して名を残す」という武士の価値体系が軍国主義たけなわの戦前の日本社会では、学校における騎馬合戦、棒倒しの体育と共に男子の身の処し方として養育された。
 特攻死した学徒兵のうちには、自分の夢は、わが愛する祖国日本を最盛期の大英帝国のようにする事であったとした者もいた。彼は、しかしその夢も今は叶わぬものとなりましたと死への旅立ちの前夜に「所感」として書き残した。大帝国の国民として誇り、世界帝国として、地上の平和と繁栄、幸せに寄与したいという大志であった。彼の遺した日本国民へのメッセージは「願わくは愛する日本を偉大ならしめられん事を」というものであった。
 男は生まれながらに男になるのではなく、男に造られるのだとされる。女は女として同様であるとするのがフェミニズムの主張である。特攻死したこの青年男子もやはり「造られた」日本の男であったのだろうか。
 その軍国主義下の日本では、戦争を開始した政策決定者に戦争を終結させる才覚が無かった。原爆が投下され、ソ連軍が参戦してきても護国という無傷のままの天皇制国家の維持に拘り過ぎて、一億国民を玉砕戦に引きずり込まんばかりであった。「名を惜しむ」武士道では、玉砕戦は戦えても、羞じをしのんで後世のために平和を開くという決断に行き着けない。太平洋戦争に限っていえば、昭和天皇の鶴の一声は、彼の男性性から迸ったものだろうか。三月一〇日の業火から我が子を守ろうとして、覆い被さって黒焦げになって死んでいた母親のような、「女性性」の発露だったろうか。とにかく「男性性」の体現者と見立てる事のできる、居並ぶ軍人政治家の口からは聞く事が出来なかった決定打だったのだ。

戦争責任と戦後平和主義
 国民は、東京軍事法廷の歴史観に従って、軍国主義国家大日本帝国の戦争が侵略戦争であったことを学んだ。近代日本の戦争は、みんな日本が始めたものだったという認識は、自分たちが軍国主義に煽られて戦争を仕掛けなければ、アジアの平和を乱すことは無かったのだとの反省となり、日本人を軍事力は行使しないという平和主義に改心させていた。
     
ハーヴァード大学教授の〝男〟の定義
 男性性とは何かを総括する時、「切腹」と「男根開示」は日米男性性の相違を際立たせているといえよう。議論の筋道を立てるためにアメリカ側の学術的定義を一つ紹介しておこう。それはまずこんなエピソードから始まる。ハーヴァード大学の政治学者ハーヴィー・マンスフィールド(Harvey C. Mansfield)教授は、同窓会誌に原稿依頼を受けた。彼が学恩を強く感じていた今は亡き教授について書いて欲しいというのだ。彼は今こそ恩返しの時と意気込んで引き受けた。「一口に、どんな先生でしたか」の問いかけに、最初教室に現れた時の印象として、「とても男性的な人でしたね」と気軽に答えると、電話の向こう側の女性編集者は、しばし沈黙した後、「その“manliness” (男性的特質)というの、なんとかなりませんかね」といった。
 それはフェミニストの批判であった。彼女は、『ハイト・レポート』(一九八一)で理論武装していたのかも知れない。そのことは先ずマンスフィールド教授が、この女性編集者のコメントに反発して書き上げた『男性性』と題する著書の冒頭で列挙した男性性の構成要素を一瞥した上で、取り上げることにしよう。
 この女性編集者のコメントに触発されてマンスフィールド教授はManliness と題する一巻の書物を書き上げた。冒頭で彼は manliness つまり「男性性」は科学的分析の対象とされてこなかったという。そして彼の抱く「男性性」のイメージをいくつかの特質として描いている。confidence(自信)、aggressiveness(攻撃性)、或いはassertiveness(断定性)、 そしてcompetitiveness(競争好き)を特徴とするという。
 しかしマンスフィールド教授が列挙している男性性の要素は、『ハイト・リポート』がサンプルとして示しているアンケート結果によれば、ほとんどすべての男性回答者から全面的に支持されているわけではない。彼らによれば、それらは彼らが女性にも好ましい特性として上げているものである。つまり男性対女性の対立的特性としてではなく、「人間」として好ましい特質と位置づけられているのである。
 そればかりではないかなりの数の回答は、伝統的には、女性の特性と位置づけられていたものを、男性性の特質として列挙しているのであった。たとえばこんな風に、「男らしさとは、よい気分、悪い気分、悲しみ、怒り、気がかりなどを感じる能力であり、感じたからにはそれを隠したり細工したりしないでありのままに他人にあからさまに示すことのできる能力のことである」
 ハーヴァード大学の同窓会誌の女性編集者がマンスフィールド教授が発した恩師にたいする誉め言葉、「男らしい男」に対して否定的反応を示したのは、彼女自身が『ハイト・レポート』の大方の男性サンプルの意見で理論武装していたのかも知れない。

 マンスフィールド教授は、彼の列挙した男性性の特質を具備した男性の具体例として9・11のニューヨーク消防隊員、「クール」という言葉もまだ無かったころの「カサブランカ」におけるクールな男ハンフリー・ボガード、それにもろもろのスポーツの英雄などをあげている。
 しかし教授自身、鉄の女と称号を奉られたイギリスの宰相マーガレット・サッチャーの例が示すように男性性は生物学的男性の個体に限られるわけではないことも冒頭で読者に確認させている。
 上に列挙した男性性の四つの特質を総合すると、それは自信家で、攻撃的、断定的、そして競争好きという人間像になる。具体的には権力志向性、政治性、指導力として表れ、国際政治の場では帝国主義的傾向(imperialism)として顕現する。
 これらの特質を体現していた代表的人物としてマンスフィールド教授が挙げているのはアメリカの第二十六代大統領シオドア・ルーズヴェルトである。彼こそは、父親やエリート・スクールの教育、そして長じては自らの自覚によって肉体的にも精神的にも男性性を高度に高め、世のため人のために尽力した人物であった。彼はスペインの植民地キューバを「解放」するために、義勇軍の騎兵隊を指揮して、実戦に参加した。直接的には海軍次官として米西戦争がアメリカの勝利に終わったときスペインにフィリピンを「譲渡」させ、間接的にはハワイ「共和国」の併合をもたらした。
 副大統領のとき、大統領のマッキンレイが暗殺されたため、大統領に就任した。次の大統領選挙で選出されて、つごう実質的に二期八年勤めた。その間、アメリカが支配するパナマ運河建設等、西太平洋にアメリカのプレゼンスを確固たるものにするのに大きく貢献した。大統領職を引退後はアフリカで猛獣狩りもした。日露戦争の終結に寄与した事をもって、ノーベル平和賞を授与されている。
 マンスフィールド教授は、彼の考える男性性を体現した代表的人物として、シオドア・ルーズヴェルト大統領を挙げたが、日本で同様に虚弱な体質から出発して、自らの意思で筋骨を増量し、自ら納得出来る男らしい男に造形した三島由紀夫と、もともと男らしい男であり明治の無血革命の立役者となった西郷隆盛を比較のために挙げておこう。三島も西郷も最後は「私兵」と共にあり、そして自裁して果てている。一見ルーズベルトの騎馬義勇軍を思わせるものがあるが,ハラキリ、介錯の自裁とライフルの猛獣狩りの差は大きい。

 

版元から一言

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タイトル解題

おおぎょうなタイトルでビビられたでしょうか。でも、著者の私は大真面目で、「男とは何か?」を主題にして日米の戦争と平和を読み解こうとしたものです。
フェミニズムの立場では、男は生まれたままに「オトコ」になるのではない、「オトコ」に造られるのだといいます。
「俺は自由主義者だ、自由主義と全体主義が戦えば、自由主義が勝利するのは歴史が示すとおりである。日本は負ける。しかし俺が死ななければ日本は変わらない。どうか愛する日本の国民の皆さん、日本を偉大な国にしてください」といいのこして、若干22歳、青春真っただなかで特攻死した上原良司陸軍航空少尉の並外れた見識と断固たる意思の力に圧倒される思いがします。
しかしこの偉大な人格もやはり戦前日本の男性文化のなかで作られたものだったのでしょうか。知的で剛毅で偉大な人格だけに、深い悲しみに襲われます。
表紙にいただいた井上有一の怒りに震える書「愚」は生き延びたればこそ可能だったもう一人の偉大な日本男子のすがたです。
それに対するアメリカ人男子の姿は、マリーンに志願するのが「オトコ」になるための最も有効な最短距離と思われています。そうやって、実戦に従事した経験から、帰国すると、断固たる反戦運動に結集する男性性の極限的発露を見ることもありました。それはマッチョな国の作用に対する反作用でありました。
作用の側には、ヴェトナム戦争をエスカレートさせたジョンソン大統領がいました。投入兵力は50万に達し、月々1000人の戦死者を出し、敗戦にけっし、撤退するまでに死傷した兵士の数は21万を超えました。戦場と化したヴェトナムでは死傷者は老若男女あわせて300万にも達したと言われます。その間、「いったい何時この戦争を終わらせるつもりなのか」と記者に問い詰められて、ジョンソン大統領は、今はこれまでと、ズボンのジッパーをさげ、中から結構見栄えのするいちもつを取り出して、「俺のこれが許さぬのだ」といったのです。
日本ではあのアジア太平洋戦争の結末を、天皇の鶴の一声で、敗戦としたとき、それまで一億国民をおのれの「美意識」のままに、本土決戦の玉砕戦に投入しようとしていた軍部指導者は、敗戦の責任を自裁することで完結しようとしました。サムライの伝統ではあります。それはそれで美しい。
しかし国民はその道ずれにされるばかりの瀬戸際まで連れて行かれていたことを思えば、褒め称えてばかりいられるものではありません。ここに日米の男性性のグラフィックと言っていい大差をみるのです。
それが『ハラキリと男根開示‐男とは何か?男性性で読み解く日米の戦争と平和』の題名の由来です。
                                        著 者

著者プロフィール

巨勢 逆(コセ サカシ)

こせ さかし・本名 三輪公忠
1929年、長野県松本市生まれ。

目次

はじめに 7

第一部 男であるということ 17
 1 フェミニズム以降の男性性 18
 2 ペニスが生み出したオリエント世界 32
 3 ガニュメデス 46
 4 男と戦争 55
 5 戦の現場で 78
 6 エロスと殺気 87
 7 近代国家日本の兵士 95
 8 インパール作戦は何故失敗したか? 102
 9 日本人の「男性性」では降服すらできない 106
 10 男だけの世界 108
 11 肉体と衣装 115
 12 父子 122

第二部 男になるということ 131
 13 刺青とタトゥー 132
 14 褌考現学 146
 15 筋肉質の基督教、紳士道 149
 16 敗北の美学、武士道 160
 17 アメリカの南北戦争、西郷の反乱 168
 18 三島由紀夫とイラン人 172
 19 ジハドの死と特攻死 181
 20 諫死としての特攻死 191
 21 戦後日本の平和主義 207
 22 男になるということ 229
 23 A級戦犯広田弘毅は黙していたか? 236
    
おわりに 239

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