ユダヤ人のゲットーや黒人建築家の歴史から現代の新宗教やグーグルストリートビューまで、都市や建築がここまでわかったらおもしろい!
文系の人の知的好奇心も刺激する教養書。
いまもっとも注目されている建築批評家の人文・社会系著述の集大成。
(社)日本図書館協会 選定図書
1967年生まれ。建築史・建築批評家。現在、東北大学大学院工学研究科准教授。雑誌は建築専門誌各誌はもちろん、『ハイファッション』『カーサ・ブルータス』『東京人』までこなし、幅広い読者をもつ。第11回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展の日本コミッショナーをつとめる。
主著『過防備都市』『美しい都市・醜い都市』(ともに中公新書ラクレ)、『新宗教と巨大建築』(講談社現代新書)、『戦争と建築』(晶文社)、『見えない震災』(みすず書房)、『終わりの建築/始まりの建築』(INAX出版)、『ヤンキー文化論序説』(河出書房新社)、『映画的建築/建築的映画 』『結婚式協会の誕生』(ともに春秋社)など多数。編集協力に『磯崎新の建築談義』(六耀社)、共同監修に『建築MAP東京』など。
<歴史編>第Ⅰ部 共同体と他者
となりのユートピア/世界の表象/建築史とフィールドワーク/乱反射するオリエンタリズム/1492年―外なる他者と内なる他者/アフリカン・アメリカン・アーキテクトの憂鬱
<歴史編>第Ⅱ部 建築家と他者
ジェンダー論① 女性性をめぐって/ジェンダー論② 女性と建築家―4つの事例をめぐって/自伝論① 建築家という<私>/自伝論② 建築界の黒羊―下田菊太郎論/遅咲き建築家列伝/建築はいかに社会と回路をつなぐのか
<現代編>第Ⅰ部 都市の記憶
国家を表象する東京建築/僕たちは靖国を知らない/ふたつのグランドゼロ/廃墟になる自由/重層的な時間を風景に刻む/近代の建築は愛されているか/ダム建設がもたらした現代の祝祭/博物館化する上海/歴史の天使が舞うベルリン
<現代編>第Ⅱ部 都市の変容
*公共空間
リスボンの資産、現代の広場/グラーツの橋が教えるもの/シアトルの新しい図書公共空間/ルツェルンをおおう大きな屋根/台湾の開かれたスタジアム
*文化戦略
都市的建築としてのビルバオの美術館/文化都市ヴェネチアが生きる道/マニラの政治空間/ソウルに生まれた新名所
*予防監視
99%と100%のあいだ/世界遺産の落書き/扉を開くストリートビュー
*都市名所
スペース・ニードルと東京タワー/東京と名古屋の新しい顔となる高層ビル/ シェルコムせんだい/21世紀を切り開く、鳥の巣
次 序─────────────篠野志郎
石の来歴(写真解説) ───────篠野志郎
序 失われた足跡
一 楽園を離れて
二 石の変容
三 複合化する空間
四 越境する空間
五 東アナトリアの歴史建築
跋 時の翼に乗って
遺構所在地図・遺構索引─────守田正志
王都アニの建築─────────藤田康仁
一 失われた都市
二 アニ文化圏の中・後期アルメニア建築の概要
三 アニ文化圏の中・後期アルメニア建築の特質
墓廟建築にみる建築技術の伝播──守田正志
一 中世のアナトリアにおけるイスラーム
二 アナトリアの墓廟建築研究の史的意義
三 工法にみる墓廟建築の分布
四 架構構成にみる墓廟建築の分布
五 外来と土着の建築技術の融合
用語解説・解説図版───────藤田康仁
解 題─────────────黒津高行 解題『東アナトリアの歴史建築』 黒津高行
本書は、東アナトリア地域に残された多様な歴史建築を、12年にわたる研究成果を踏まえて紹介した写真集である。2007年に刊行した写真集『Out of the Frame──アルメニア共和国の建築と風土』の続編にあたる。まさに本書の書き出しは、前書の「おわりに──into the Frame」で記した2005年12月のアルメニア訪問の場面から再び語られてゆく。
本書に収録された美しい写真は、著者が建築遺構の撮影をとおして過去と対峙して切り取った記録である。建設者たちよりも長生きしてきた建築物には分厚い「過去の知識」が蓄えられている。著者から提示された建築写真を前にした読者は、おそらく時間の重みを感じることになるであろう。これらの建築が何を語りかけているのか、そのことを直ちに読み取ることはできないが、頁を開く度に、東アナトリアの歴史建築の現在とその魅力の何かがずっしりと伝わってくるに違いない。建築写真集という性格上、かちっとした誌面構成になっているが、時折差し込まれた風景と人物の写真が読者をほっとさせてくれる。そして、かつて独自の建築空間を創造した当時の人々の願いと、それを育んだ広大な大地に、またそうした空間と共に送られる生活に思いを巡らせることができるかも知れない。
著者によれば、地中海・黒海・カスピ海に囲まれたアナトリア・カフカース・シリアの各地域には、独自の建築文化が開花したという。とりわけ、五世紀から一四世紀にかけては、アナトリア中部の初期キリスト教およびビザンツ教会の建築、北シリアの初期キリスト教建築、東アナトリアからカフカース一帯に分布するアルメニア教会およびグルジア教会の建築、アナトリアに広く分布するセルジューク朝期のイスラーム建築など、多様な建築形式が展開した。キリスト教の歴史建築だけでも六〇〇棟を超える遺構が残されている。
著者は、1998年からアルメニア教会建築を対象に悉皆調査を開始し、建築技術の側面から東アナトリアにおける各建築群の建築的特質とその展開を明らかにしてきた。そして、調査対象をアナトリア高地全域に拡張し、これまで西欧建築史の文脈の中で捉えられてきたこの地域の建築文化を再評価し、史的位置づけを試みようとしている。本書は、こうした研究蓄積の中から生まれた。ここでは、2006年から2008年の3年間に調査した東トルコに散在するキリスト教・イスラーム教の建築遺構を中心に紹介しており、翼畠な写真と建築解説をとおして、失われつつある東アナトリアの多様な歴史建築の様態を炙り出してみせる。さらに、2009年のシリアでの調査成果も盛り込み、キリスト教建築を生み出した最初期の建築形態を読み解いている。
本書は、「石の来歴」と題した序と後書きを含む五章構成で、巻末に調査の中心メンバーである藤田康仁と守田正念による論考を収録する。
(中略)
本書は、写真集の体裁をとっているが、解説の内容は深く、東アナトリアの歴史建築の系譜をダイナミックに論述し通史でもある。かつてギリシャのアトス山に滞在して修道院建築遺構を調査した著者の、熱い思いが伝わってくる。つまり、五官で実物と向き合う重要性、海外の建築に漂う立ち位置、学術論文では表現できない建築史学研究の面白さを伝えようとしたのではないか。近年、建築史学の分野でもアジア圏を除けば、海外の古い建築を研究する学徒は減少の傾向にあり、本書がそうし風潮に一石を投じるものであることは間違いない。建築史学が美術史や歴史学とどう異なるのか、本書が提起している問題は、今後、工学部建築学科の中に籍を置く建築史学の発展を考える上で、避けては通れない答えを求められる問でもある。その問に対して、著者は何よりも、建築史学を社会に対して開くことの必要性を、主張しているように思えてならない。その試みの一つが本書ではなかったか。あえてガチガチの学術的な体裁を捨てた本書の構成や記述が、それを物語っているように思えるのである。一般読者を含めた知的世界の構築、幾らか学術的な若手の論考を含めて、著者はそうし議論の場を社会に提供したかったのではないだろうか。
本書は、日本ではこれまで紹介されることの無かった貴重な建築記録であり、学術資料としての価値は高い。建築歴史、意匠関連の専門家ばかりでなく、建築文化に関心をよせる一般読者の期待にも応えてくれる一冊といえよう。
(社)日本図書館協会 選定図書
東アナトリアに遺るキリスト教・イスラーム教の歴史建築の全貌! 約400点
五世紀の柱上苦行僧・聖シメオンが最期に目にしたヴィジョンとは?
東アナトリアの荒野に漂着した「石の方舟」が忘却の淵から謳い上げる豊饒なカンタータ
パレスチナに生まれたキリスト教は西欧に布教され、強大な教会権力を生み出した。その権力機構のもとで、西欧の各地に壮麗な教会堂が建設された。……しかし、その信仰はシリアを経由して東アナトリアにも伝えられた。そこで広まったキリスト教は、アルメニア教会、グルジア教会(後にビザンツ教会に復帰)、或いは単性派教会にみられるように、五世紀のカルケドンの公会議で異端として退けられながらも、そこに住む人々の信仰を獲得していった。東アナトリアに広まったキリスト教では、史料の多くは失われ、祈りを捧げた人々のほとんどは記録を残す事もなく、歴史の彼方へと消えていった。だが、祈りを捧げた空間は、雄弁に彼らの存在を語っている。……
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